気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

樹の人  永田吉文 

2009-03-07 01:19:41 | つれづれ
規格あるボルト・ナットの美しさ知りて輝く≪平凡≫の意味

規格にも許容範囲のある故にわれも生きゆく自信を持てり

性根すえボルト・ナットを商えり重く冷たく堅く楽しく

印刷屋・出版社・ボルト屋と移り来たりて今は古書店

新本も特価本にて安売りす古本屋は「街の幸せ売り」よ

玄奘(げんじょう)よろしく『大乗仏典』全十五巻背負い帰れり多摩川を越え

出されたる善意と思いしっかりと素早く受け取るポケット・ティッシュ

(永田吉文 樹の人 ながらみ書房)

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短歌人の先輩であり同学年のお友達永田吉文氏の第一歌集『樹の人』を読む。
このあと第二歌集『夏男』も上梓しておられるが、縁あって『樹の人』を贈っていただいた。
歌集の前半は、他の結社に所属されていたときの歌であるが、私はここに引用したような彼の人柄の善さが出た歌に魅力を感じる。
古本屋は「街の幸せ売り」とは、なかなか言えない言葉である。それが、ミイラ取りがミイラになるごとく、『大乗仏典』全十五巻を買って背負って帰るという。高くはない給料のかなりを本の購入に費やしていた元書店パートタイマーの私には、身につまされる歌である。いつも明るく前向きな夏男、永田吉文を応援したくなる。

ふたり  関口ひろみ  

2009-03-03 23:33:58 | つれづれ
箸置きておいしかつたと言ふきみよ ありがたうわれを拒まないでくれて

きみとの暮らしいとほしければいよいよにわれは狂はむおそれ満ちくる

吊革につかまり眠るといふきみよ小さき神が肩に乗りゐむ

えごの花雨に散りをりいついかにひとりぽつちにかへるのだらう

ほんの少し隙間をもらひて生きてゐるそれだけでいい小春日和は

とどめがたくミモザの黄は陽に溢れくらくらとわれは逃れきたりつ

(関口ひろみ ふたり 青磁社)

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かりん所属の関口ひろみの第二歌集『ふたり』を読む。
あとがきにもあるが、作者は、この歌集に収録された歌を作った1997年夏から2007年秋にかけて、摂食障害、疼痛性障害の二つの病気を患い、入退院を繰り返している。病気の原因は、不安と緊張にあるらしい。
優しい夫と一緒に暮らしていても拭えない不安。いつかひとりになってしまうことへの不安。そのために起こる病と入院生活。しかし入院してしまうと、却ってほっとするところもあるらしい。
この歌集を一読したとき、病気であっても優しいパートナーのいる作者に嫉妬して、しばらく読まずに放り出していたが、読み返して、作者のこころの痛みは私の抱く痛みと共通していると、のめり込むように読んでしまった。
自己評価が低い作者の性格が何の原因かはわからないし、短歌とは関係のないことであるが、短歌にすること、言葉で気持ちを表現することで、作者は確実に良い方向に向かっている。短歌のちからを借りて、病気と付き合っている。
パートナーが優しくて、いいひとであればあるほど、申し訳なさを感じる気持ち。繊細すぎて生きにくい人なのだ。
いろいろなことを考えさせてくれる歌集である。

今日の朝日歌壇

2009-03-02 20:28:14 | 朝日歌壇
耳寄せて張り確かむるティンパニー奏者は密語聞き取るらしき
(横須賀市 丹羽利一)

「英語青年」休刊の記事切り抜きて書斎に入りぬ黙して夫は
(東村山市 岡本和子)

雪光りマーブルチョコのような子がコロコロとび出る昼の校庭
(青森県 向山敦子)

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一首目。楽器と演奏者の親密な関係がよくわかる一首。愛用の楽器と奏者は夫婦か恋人のようになってしまうのだろう。お互いの体調に常に心を寄せる。人間以上の親密さかもしれない。
二首目。買ったことはないけれど、「英語青年」という雑誌があることは知っていた。作者の夫は長い間の愛読者で大きなショックを受けられたのだろう。雑誌と言えども、長い付き合いの親友のようなもの。
雑誌は、売れなければ、廃刊になる運命に抗うことは出来ない。
三首目。これは楽しい歌。雪で白くなった校庭に、マーブルチョコのような色とりどりのジャンパーを着た子供たちが飛び出して来た。視覚的にも明るく生き生きしている。マーブルチョコを知らない人はないだろう。どの色から食べるか、だれもが迷ったはずのお菓子。「コロコロとび出る」もぴったりの表現だ。

「主婦の友」廃刊となり女らはひとりひとりの「STORY」を生く
(近藤かすみ)

丸皿にこにこ 

2009-03-01 00:46:04 | 交友録
ひからびしミミズ背負ひぬ蟻どもの賃金少し値上げをせむか

長方形正方形の角皿に並びて丸皿にこにこ笑ふ

空さしていたいいたいは飛んでゆけ母が空見る子は涙ふく

(水田まり 短歌人3月号)

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水田まりさんは、短歌人のお友達。以前はときどき関西歌会に来られていたが、最近は関西には来られないようだ。新年歌会ではお見かけしたような気がする。
それはともかくとして、今月の水田さんの歌は、温かくてとても素敵だと思った。わかりやすく物を見る目がとても優しい。読んでいて心がなごむ。人柄の良さが歌に出ていると思う。短歌を作る人には、鬱的な暗い性格の人、嫉妬深い人(私のこと)もいるが、ほっとする歌を作るというのも、ひとつのやり方だと思った。しかしこれはなかなか真似ができない。貴重な存在だと思った。