気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2009-03-23 23:35:03 | 朝日歌壇
トラックの荷台ひらきて首のないマネキン二体運び出されつ
(沼津市 森田小夜子)

冠を接着剤でそっと止め五十年経し雛の童顔
(千葉市 原口美智子)

目瞑(つむ)りて沢庵を噛みぬ焔(ほのお)の匂いがすると詠いし斎藤茂吉
(池田市 岡村照子)

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一首目。怖い歌である。トラックの荷台からマネキンを運び出したという事実だけを述べているが、何やらぞっとする。真ん中の三句目に「首のない」が置いてあって、インパクトがある。
二首目。五十年経っていても、人形だから童顔のまま。人間のように老けることはない。作者が両親、祖父母から譲り受けて大切にして来た雛人形なのだろう。上句で、修繕している様子があるので、ちょっとは作者の顔も見える。一首目でも思ったが人形を詠うと、和やかさより怖くなる。
三首目。斎藤茂吉の歌集『ともしび』の中の歌「かへりこし家にあかつきのちやぶ台に火焔(ほのほ)の香する沢庵を食む」から題材を取った歌。ヨーロッパに留学していた茂吉が帰国途中に青山脳病院の火災の知らせを受け、帰ってくると病院は焼け、後始末に奔走せざるを得ない状況になる。作者も沢庵を食べながら、そんな茂吉の苦労に心を寄せたのだろう。茂吉は、いまも歌壇のアイドルだ。
この歌は破調で字余り。内容もややマニアック。新聞歌壇で選ばれたことにちょっと意外な感じをうけた。

だれにでも裸体をさらすマネキンのやうな日記をまた読みに行く
(近藤かすみ)