気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

きのうの朝日歌壇

2008-08-19 00:25:41 | 朝日歌壇
やわらかき訛こぼるるふるさとの風に結び目ゆるびゆくなり
(福島市 美原凍子)

一天文単位の先の光浴び蝉もわたしも束の間を生く
(茨木市 瀬川幸子)

久々に父の形見の墨磨りて墨に残りし父の癖知る
(東京都 津久井英喜)

************************

一首目。美原凍子さんの住所が福島市になったことに驚いた。夕張市からどこへ行かれるのかと、陰ながら気になっていた。そうか、福島が故郷でそこへ帰られたのだと納得した。歌の気分は、啄木の「ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」に近い感じだが、結び目ゆるび・・・で緊張が緩んだことを表現している。
二首目。天文単位という言葉をよく知らなかったが、調べてみると、1天文単位は太陽と地球との平均距離で、1億4960万キロメートルとある。こういうはっとするような言葉を初句にもってきて、蝉もわたしも・・と自分に引きつけて詠んでいるのがよいと思う。
三首目。亡くなられたお父さまを懐かしむ歌。墨というのは、磨る人のクセが残るものだと改めて思った。頭で考えたのじゃなく、きっと実際に体験して作られた歌だと思う。胸にじんと来る歌だ。

今日の朝日歌壇

2008-08-11 21:13:10 | 朝日歌壇
風止みし炎昼にただ雑草は揺らめいており室外機の脇
(横須賀市 中川栄治)

梅雨明けて流れの細る高瀬川一之舟入蝉しぐれ降る
(京都市 高橋雅雄)

二度三度空(くう)をなだめて空(くう)に添い切り裂きゆけり高飛びこみは
(広島市 小田優子)

****************************

一首目。燃えるように暑い真昼、エアコンの室外機の脇には、機械の作動につれてゆるく熱風が出てくるので、そのまわりの雑草が揺れている。よく観察した歌だと思う。雑草という大雑把な言い方がよいのか、何か具体的な草の名があればよいのか、意見の分かれるところだろう。ここは雑草の方がいいかもしれない。
二首目。高瀬川、一之舟入という地名が魅力的。森鴎外の小説『高瀬舟』の舞台でもあり、近くにはノーベル賞で有名になった田中耕一氏の勤務する島津製作所創業記念館がある。
三首目。高飛びこみの様子をよく見て適切な言葉で詠っている。空をなだめて空に添い・・・に感心した。

たはやすくエアコンに縋るわれの身となりてかなしや秋立ちぬれど
(近藤かすみ)