気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

人を恋うロバ  美帆シボ 

2008-08-08 01:11:50 | つれづれ
万緑のアルデッシュの谷おりゆけば崩れ屋敷に石の十字架

闇ふかき谷間を駆ける音ひびき街の灯りに人を恋うロバ

葉陰より君がさしだす桜桃(スリーズ)のわがくちびるにふれて地に落つ

サラダ菜を花束(ブーケ)のように差しだして若き八百屋のはじめての市

ボンジュール! 手をさしだすは武器のなき証と知れば手を出(いだ)すなり

空のあお映して青き君の瞳(め)が灰色(グレイ)にかげる巴里の冬来ぬ

(美帆シボ 人を恋うロバ ながらみ書房)

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心の花所属で、朝日歌壇でもおなじみの美帆シボさんの第一歌集を読む。あとがきによれば、フランス人と結婚し二人の子供を育てた作者は、フランス滞在二十三年、四十八歳にして短歌を始められた。フランス語圏で、原爆の実相を伝える活動や通訳をしながら四半世紀が経とうとしていたとき、精神的な危機に陥り、それがきっかけで短歌を作り始めたとのこと。海外での短歌の勉強は試行錯誤で、朝日歌壇に応募したり、さまざまな人との関わりの中で、2005年に心の花の会員となった。
例にあげた歌には、ルビが多用されているが、どれも必然性のある使い方で、読む者の理解を助けてくれる。憧れのフランスの香りが感じられて心地よい。

金髪の少女稚けなしいつまでもフランスキャラメル紙箱のうへ
(近藤かすみ)