気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

二月の兎  松野広美 

2012-09-12 20:29:57 | つれづれ
春ふかく車体ひらきし救急車とおりの向こうに洗われている

捨てられたわけではないが園舎裏に集まっている骨ほそき傘

母体とはただひたすらに機能してそれからあとは一匙のジャム

なにがどうなっているのかくしゃくしゃのアルミホイール分娩まぎわ

<美しき言葉の海>に子を放ち雲の鱗を数えるばかり

剥き出しのブロック塀に囲まれたわたしの庭に兎を放つ

近道のこの金網をまたぐとき見知らぬ冬が靴先に触る

ところどころ兎齧りてちぎれたる 十年日記 九年目を書く

パソコンのあかりに青く翳る子が鰯に見えるしずかな鰯

遠ざかる惑星探査機(クレメンタイン) 駄菓子屋に入っていったきりそれっきり

ひとり食む夫の夕餉その箸の先もてひょいとリモコンを押す

ひとつずつ防犯ベルをたずさえて小学生は鳩の匂いす

捨てるように埋めてきたよ泣いたあとのまぶたのように膨らんでいた

(松野広美 二月の兎 砂子屋書房)

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松野広美の第一歌集『二月の兎』を読む。
松野さんとは面識もないが、私の第一歌集『雲ケ畑まで』をお読みいただき、感想、選歌とともに、ご自分の歌集を送って来られた。短歌の縁で繋がっていく喜びを感じる。

松野広美さんは、みぎわ短歌会所属。歌集に収められている歌は、出産から、子育ての歌が中心となっている。三首目、四首目、五首目には、作者独特の把握の仕方で出産が詠われる。一匙のジャム、くしゃくしゃのアルミホイールという語彙が新鮮だ。

集題の『二月の兎』は、作者の上のお子さんが入学前に、飼うことになった兎から取られている。夫婦と男の子二人と兎一匹の暮らしが描かれるが、お子さんの小学校卒業前に、突然兎は死んでしまう。これが十三首目。
跋文は、兎繋がり?で花山多佳子さんが書いておられる。

たまたまだが、作者は私より十年若い。私がもっと早くから短歌を初めて、出産や家族で暮らしていたころの歌を作っていたら、こんな風かもしれないし、また違っていたかもしれない。松野さんは、お手紙に「私がこれから経験してゆくであろう月日を想像しながら読んでいました」と書いてくださった。
私も、十年前の、またそれ以前の自分を思い出したことだった。

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