気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

陽だまり 井上春代 

2011-10-04 18:14:16 | つれづれ
子離れはし難しなどと想いつつ鍋に溢るる灰汁すくいおり

二月(にんがつ)の陽も編み込みてセーターとなりゆくまでの過程を愛す

とりたてて語らうでもなく子は去りぬ昼月のような想い残して

楽に生きよ楽に生きよと言う声がわたしの肩をなぞりて行きぬ

「みんなみんな好きに生きたらいいんやよ」たった一度の人生やから

幸せが満ちているよな勘違いほのと食パン焼き上がりたり

陽だまりで足指じざいに遊ばせて踝までの春と思えり

疾風の転がしゆけるポリ袋かぜを孕みて自在でありぬ

干し竿に美しき月つりさげて風すみ渡る冬となりけり

幸せといわれればそんな気もするが軽やかに飛ぶエンマコオロギ

(井上春代 陽だまり 六花書林)

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短歌人同人の井上春代さんの第一歌集『陽だまり』を読む。
井上さんは愛知県春日井市にお住まいで、私よりいくつか年上の方。歌やあとがきを読むと、警察を退職されたご主人と、息子さん二人の主婦のようだ。息子さんが離れていくときの歌など、身につまされる思いで読んだ。
子離れはし難し、のあとに鍋の灰汁をすくうという動作が詠われて歌に現実感が出ている。セーターの歌も「過程を愛す」と冷静な目がある。現実を見つめ、反発したり悲しく思ったりしながらも、やがて自分の思いを宥めて落ち着いていく過程が詠われているのに共感した。