気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

天蓋天涯 三井ゆき つづき

2008-06-07 21:29:10 | つれづれ
遠吠えを知らざる犬がチマチマとチェックの服など着けてすぎゆく

佇めばテーマパークのごとき国行きはぐれたる青草のひと

生み落とす氷の音をひびかせてほがらかなりき夜の冷蔵庫

われがわれにかへれるまでにたつぷりと使ひし三年半分は酒

クロールの息継ぎの間に見ゆる窓うるむがごとく春はすぐそこ

開けつ放しの玄関ゆゑに喪の家に流れこみたりやよひのかぜは

(三井ゆき 天蓋天涯 角川書店)

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『天蓋天涯』は今年の日本歌人クラブ賞を受賞している。
チェックの服を着ける犬、テーマパークのような国…現代の日本への皮肉がきいている。
冷蔵庫の歌は、ほがらかさが心地よい。
四首目。夫を失った悲しみを紛らわせるためにお酒も必要だったのだろう。「たつぷりと」が哀しく効いている。
クロールで泳ぐ健康的な姿も見えるが、三井さんの家はいつまでも喪の家なのだ。短歌と短歌の仲間が、救いになっていれば良いけれど。こんな私でさえも短歌に支えられて生きていると感じるときがある。

クロールで左半顔あぐるとき思ふ「義経息つぎの水」
(近藤かすみ)