気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

天泣 高野公彦歌集

2008-06-18 00:28:42 | つれづれ
街川に自転車いくつ水漬きをり死ぬには永き歳月が要る

萍(うきくさ)の葉のめぐりなる水の面絹のうねりす雨ふる前を

やはらかきふるき日本の言葉もて原発かぞふひい、ふう、みい、よ

雁の列より離れゆく一つ雁おもひて書きぬ退職届

甕(かめ)ゆれて遅れて揺るる甕の中の水のやうなりこころといふは

  長女、就職
早寝して子はみづからの歳月を生き始めをり夜の霞草

(高野公彦 天泣 短歌研究社)

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高野公彦の第八歌集。平成五年から六年にかけての作品が収められている。高野はこの歌集で、第一回若山牧水賞を受賞。
この時期、永らく勤めた出版社を辞め、青山学院女子短大に再就職。職場を変わることの微妙なこころが詠われている。
高野公彦の歌に、よく出てくるのは、水と自転車。
一首目は、この両方が出てきて、いかにも彼らしい歌。捨てられて役に立たなくなっても片付けられない自転車に、自らの死までの遠い道のりを重ねている。しかし、突然やって来る死もあるのだ。
二首目の萍の歌の、雨ふる前の絹のうねり、五首目の甕のなかの水・・・なんて繊細な表現だろうと感心する。

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(近藤かすみ)