気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

天蓋天涯  三井ゆき  

2008-06-06 23:16:25 | つれづれ
鎧戸の向うはあかるき海のいろ籠るも出づるもみづからがこと

たまゆらと永遠(とは)とはたぶん同じこと丘にあまねしやよひのひかり

死者は死者息する者を置き去りに出でてゆくなる教会の門

紅しだれ昏きがなかに鎮まれり天蓋天涯旅びとは過ぐ

度を越すもときにはよきかなうつくしくしだれしだれて天蓋をなす

猫にもの言ひつつ深夜の水をのむ人とつらなる蛇口をあけて

(三井ゆき 天蓋天涯 角川書店)

***************************

短歌人会の大先輩、三井ゆきさんの歌集を読む。
夫、高瀬一誌氏を亡くされてからの喪失感を詠った作品に、心が引かれる。私生活でも趣味でも結ばれた掛け替えのない良きご夫婦だったのだろう。私が短歌人会に入会したときには、すでに高瀬さんは亡くなっておられたが、「高瀬さんのハガキの励ましで続けてこられた」という声を何度も聞いた。
何を見ても亡くなった人を思い出すという時期に作られた歌が並んでいる。しかしすこしずつすこしずつ悲しみから立ち直られている様子がわかる。
紅しだれの歌は、しんとしてうつくしい。天蓋は、仏像などの上にかざす笠状の装飾のこと。天涯は、そらのはてのこと。
最後のあげた歌、ずっとひとりで一日をすごして、水を飲むときはじめて人とつらなる気がするという孤独感をひしひしと感じる。

紅枝垂のみなぎる力下りてきてわたしはわたしでなくなつてゆく
(近藤かすみ)