http://www.singletrackworld.com/2010/06/fort-william-pit-pics-part-2/
フォートウィリアムスでの一こま。
ロックショックスはDLCコートを本格的に採用してくるようです。
ロックショックス・
リリックDLCコート
一見するとただの安い真っ黒の処理に見えますが(苦笑)、間違いなくDLCコートでしょう。
まだシンジケートだけの供給みたいですが、ブラックボックステクノロジーのように一般へのリリースもあるでしょう。
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DLCはダイヤモンド・ライク・カーボンの略です。意味としてはダイヤモンドのようなカーボンとなります。個人的に言えば、文法的に納得がいかないのですが……(苦笑)。ライクの位置を考えればカーボンのようなダイヤモンドの方が正しいような……。意味を重んじればCLDのほうが適切なような……?
ではまあ、ちょっとDLCコートのさわりを。ボクサーの時に書き逃してしまいましたので(苦笑)。
ダイヤモンドのような構造の非常に強固なカーボンを被膜として施し、摺動性、耐摩耗性、低摩擦係数、耐食性といった性質に加え、焼き付きや固着、錆びなどに強い安定性を備えた表面処理です。
それはダイヤモンドやカーボングラファイトを見れば、ある程度予測が出来る性能ですね。そしてそれらに近い性質を持ちます。ですが後述するようにアモルファスであるという一点で、全く違う側面も持ち合わせるのです。
モーターサイクルなどのサスペンションインナーチューブなどが有名ですが、工業的に言えば金型に施される処理として有名なようです。先述した要素は正に型のために存在するといってもいいくらいです。金属用にも活用されますが、プラスチックやゴムなど樹脂用の金型にも良いみたいです。表面が樹脂を攻撃しないし、固着もしないという性質であるためです(もちろんこの特性はサスペンションにも有効です)。これに準じる形で切削工具にも使われています。刃物に切粉が付着しにくいというのは重要ですから。
製法はプラズマを利用して付着させることが多いです(プラズマCVD法)。他にもイオンプレーティング法、スパッタ法などがあり、それぞれと特性が異なります。おおざっぱに言えば、化学的に蒸着させるのと、物理的に蒸着させる違いです。
そして窒化コートやアルマイトと決定的に異なるのが、アモルファス(非晶質)であるということです。アモルファスとは分子の結合の仕方に特徴があります。大抵の元素は規則正しく配列しており、物質を構成しています。ところがこのアモルファスは急激な冷却などにより、不規則な配列になります。すると不規則であるが故の非常に強固な構造体を形成します。
例えるなら整列的結晶はコンクリートブロックを積み上げたようなものです。対して非晶質は城の石垣の乱積みと言えば分かりやすいでしょうか。
規則的であることの強さ、不規則であるための強さ。どちらも有りなんですね。こういう不思議さが自然界の妙です。幾ら追求してもまだ足りないですねえ。
その丈夫さはビッカーズ硬度の高さにも表れています。他の表面処理が劣るというわけではないのですが、この高い硬度のおかげでDLCコートと窒化コートは優秀なコートであるというイメージと実績を積み上げたのだと私は考えています。表面がいくら滑らかでも柔ければ、オイルシールやスライドメタル(自転車ではプラスチックが多い)に引っかかり、結果として摺動性が悪くなりますから。
http://www.jcc-coating.co.jp/products_slick.html
ビッカーズ硬度は窒化コートと同じレベルの製品がありますが、性能が同じか? と聞かれると答えに困ります。何故ならDLCコートと窒化コートは、滑らかに動くために理由が異なるからです。
http://www.tool-tec.com/hyoumensyori.html
窒化コートはある程度表面が荒れています。そこに潤滑オイルをため込むことが出来るわけです。潤滑油の有無は動きに直結しますから。油の切れたチェーンを想像してもらえると分かりやすいかと。
対してDLCコートは表面が平らです。本来はここまで平らだとオイル溜まりもなく、オイルシールすなわちゴムと過度に干渉してしまい、動きが悪くなります。ですがここでDLCに備わっている性質が本領を発揮するのです。オイルレスでも使用可能なほどの高い摺動性と、樹脂とも固着しにくい安定性です。これは他のコートにはない性質です。故にDLC採用サスペンションは滑らかに動きます。
アルマイトなどの性能は結晶という性質に由来しますが、DLCコートはその分子構造に由来すると言っていいでしょう。
http://www.nippon-itf.co.jp/products/dlc.html
因みに、鉄以外のアルミ、マグネシウム、真鍮、セラミックなどに施すことが出来ます。
でも注意したいのはDLCコートと名が付くならなんでも素晴らしい物か? ということです。カシマコートはどんな素材に施してあっても一定の性能を信じて良いでしょう。それは作っているのがミヤキ一社だからです。ですがDLCコートは数多くの会社が手がけ、販売しています。そのなかでも製法が異なったり、どのような性質に特化させるかにより差が生じます。つまりピンもキリもあるということです。
こんなところで。