バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

ブルース、ソウルにニューオーリンズ!ソウルフルな音楽溢れる東京武蔵野の音楽呑み屋バイユーゲイトにまつわる日々のつれづれを

五十嵐正史 竹内浩三を歌う 素晴らしいです。

2015-06-10 | 音楽
自分が音楽に感激する判断基準のひとつに「熱」がある。
聴いている者の体温を上げ、強烈に揺さぶり音楽に巻き込む熱気。その音楽表現から沸き起こる、無視する事ができないほどの「熱」。熱量の大きい音楽には有無を言わせぬものがある。
LIVE、生演奏ではその場に作り上げた空気や温度、風景も一緒になって攻めて来る。音楽ジャンルや諸々を越えてねじ伏せられる体験を何度か味わったことがある。
録音物の場合は、「熱」を届けるに多くの関門がある。音盤を飛び出してスピーカーをくぐり抜け辿り着いてくるには強靭な熱量が必要だ。

生意気言うようだが、浅はかで軽薄な熱モドキには騙されないよう50年近くかけて感覚を鍛えてきたつもりだったりもする。

一昨日。月曜日のバイユー閉店後、深夜の店内でこの音盤にヤラれた。

ひたぶるにただ 五十嵐正史 竹内浩三を歌う / 五十嵐正史



五十嵐正史&ソウルブラザーズとしてバイユーにも定期的に出演してくれている五十嵐くん。
彼が、1945年フィリピンに於いて23才で戦死した竹内浩三の残した詩に曲をつけ、歌った作品だ。

竹内浩三は三重県出身。東京で映画学科の学生として大学生活をおくり、映画を見ては食べ飲み歩きくという日々を過ごした。文学、酒、女の子が大好きな(モテなかったようでよくフラれらようだ)今も自分たちの周りに居そうな男。
そんな男が大学を繰り上げ卒業させられ、戦地へおくられた末、命を落としました(生死状況は不明)。文学青年であった彼は陸軍入営後も含め、多くの詩や絵を残しました。

そんな竹内浩三作品に29才で出会った五十嵐くんは16年かけて少しずつ曲をつけた。
そう、日々の暮らしそして音楽活動の中でじっくりと詩に向き合い曲をつけていったのだ。次々にではない。なので選ばれた詩、つけられたメロディには16年の時間や暮らしのなかでタイミングを含めそれなりの理由があるのだと思う。

こんな風に、遺した作品に向かい合ってもらった竹内浩三は幸せだと思う。いや、彼は非道な国家と戦争の犠牲になったので幸せではないから、
「彼の作品は幸せだと思う」。

LIVEで竹内作品を歌う五十嵐くんとソウブラも強烈に心に響くが、この音盤に込められた熱量はそれ以上に凄い。
…比べるのが間違ってますね。別の種類の凄さです。

どういう音楽が録音されているかある程度知っていた自分が、店内を片付け翌日の準備をしていたダラけた俺が、スピーカーから出てくる音楽に釘付けになった。
とにかくもの凄い情熱、熱量。

1曲目『骨のうたう』から耳を奪われた。

戦死やあわれ 兵隊の死ぬるやあわれ
とおい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため 大君のため
死んでしまうや
その心や…

と歌われる音の隙間に漂う空気に圧倒される。

反戦、体制批判そんなシンプルなメッセージではない。

俺たちと同じようななんら生産性のない行為や毎日に情熱を傾けている「決して立派でない男」が日常をうたい、やがて大切な「個」を奪われてゆく様を作品として遺し。遺された作品が70年後に同じような精神世界でちょっとだらしなく暮らす僕らのメロディに乗せて歌われる。そんな音楽なのだ。

実際五十嵐くんは自身のブログで「彼の遺した詩を歌にしたぼくのCDを、チンケな戦後の嘘っぱち反戦平和の政治世界の道具にすることは絶対にありませんが、彼のようにクソみたいな時代でもひたぶるに自分を生き切った証しを、誰か一人にでも伝えられたら本望だと…」と記しています。

どうしようもない、ロクデナシな「個」でも個は個。
それを侵すような輩や流れに抗うことは今の自分たちにとっては当然で、それは政治的でもなんでもない。

少し知るに竹内浩三は素晴らしい才能の持ち主で有ると同時に、なかなかにダメなヤツでもあったようだ(笑)それも伝説の芸術家のような破天荒さではなく、今の俺たちと大差ないダメさ加減。リアリティがあります(ゆえに日常をうたった作品が沁みるのです)。

そんな詩の数々が五十嵐くんの溢れ出る情熱によって~映画も見れない、ロックンロールもできない(竹内浩三はロックンロール知らないか~)ようになってしまった時代と、2014年(昨年リリース)の身近な空気を繋いでくれる稀有な音楽作品となりました。

このアルバム、音楽のテイスト的には普段僕がお薦めしているタイプのものとは違うかもしれませんが、「この音楽を作りたい歌いたい」という圧倒的な熱に包まれた素晴らしい作品です。
とても強いのに押し付けがましくなくって、僕は大好きです。

明らかにちょっとおかしい今の時代、多くの方に聴いて頂きたい作品だと思います。

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