南無煩悩大菩薩

今日是好日也

結晶的知能

2018-12-05 | 古今北東西南の切抜
(画像/「東京物語」より)

人間の認知機能や知能は加齢とともにどのように変化していくのだろうか。これは脳・神経科学、そして加齢と心身の変化を研究している老年学や心理学の最大の研究テーマである。

知能が変化すれば意思決定の質も変化し、消費、貯蓄、労働、企業経営、相続といった経済行動にも影響を与える。そして、仮に「加齢とともに知能が『一方的に』低下していく」のならば、少子化で若年者が減少し、長寿化で高齢者が増える社会は「日本全体の知能」が減少していくことを意味するので、社会・経済の見通しは暗いものになる。

ただ、「加齢とともに知能は必ずしも低下していくわけではない 」としたら話は変わってくる。

発達心理学、老年学では、人間の知能は大きく「流動性知能」と「結晶性知能」の二つから構成されている。

そして脳・神経科学はこうした知能の構造を分析、研究している。

流動性知能は、論理的、抽象的な理解力であるIQに相当し、合理的思考の基盤になる。

結晶性知能は、他人の感情を読み取り、他人を説得し、組織をコントロールするといった「対人コミュニケーション」など、経験知に支えられた能力であり、一般的にEQ(Emotional Intelligence Quotient)に近い。

多くの研究によると、流動性知能は若いときが最も高く、年齢とともに低下する。逆に結晶性知能は年齢とともに上昇するとされる。

二つの知能は40歳代を境に逆転し、両者を組み合わせた総合的な認知機能すなわち知能は50歳代半ばでピークになり、その後、個人差はあるものの60歳代後半まで維持できるとされている。


厚生労働省によると、認知症患者数は2015年時点で約525 万人に達し、2040 年ごろには800 万~950 万人と推計され、その大半が75歳以上によって占められるという。
現時点で75歳以上の30%程度が認知症を患っており、将来、75歳以上のなかでもより高齢の人が増えることから、35~40%程度が認知症になる。このことは金融市場経由で日本経済に影響を与える。現在、個人金融資産は1,900兆円近い。その20%を75歳以上が保有しているが、2040年ごろに30%になる。そして、75歳以上の35%が認知症になれば、実に個人金融資産の約10(30%×35%)、つまり190兆円近くが認知症の方によって保有される。
株式投資など有効な投資活動ができなくなることで、株価は低迷し、日本経済の足を引っ張ることになる。この問題を研究する分野は「金融老年学」と呼ばれ、近年注目されている 。


さて、いよいよ身体や認知機能の低下が始まったら生活はどうすればよいのか。生涯発達心理学の研究者ポール・バルテスは、高齢のピアニストが曲目を絞り込んで練習することで高いパフォーマンスを維持しているように、「選択」「最適化」「補償」からなる「補償をともなう選択的最適化理論」を提唱している。

若いときとは異なり、日々の生活のなかであれやこれやあまり欲張らず、必要な活動目標を選択して、絞り込む。

自分の残った機能をそこに効率的に割り当て、最適化する。

そして、どうしても機能が低下した部分については、機械や道具、他人に頼って不足分を補う。つまり補償するのである。

切抜/駒村 康平「長寿と認知機能の変化」より
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