人間、長くみれば、朝(あした)を知らず、短くおもえば、夕(ゆうべ)におどろく。
されば、天地は万物の逆旅(げきりょ)。光陰は百代の過客、浮世(ふせい)は夢幻(ゆめまぼろし)といふ。
時の間の煙、死すれば何ぞ、金銀、瓦石にはおとれり。黄泉(こうせん)の用には立ちがたし。
然りといえども、残して、子孫のためとはなりぬ。
ひそかに思うに、世にあるほどの願い、何によらず、銀徳にて叶わざる事、雨が下に五つ(地水火風空の五輪よりなる肉体生命)有。
それより他はなかりき。是にましたる宝船の有るべきや。
見ぬ嶋の鬼の持ちし、隠れ笠、隠れ蓑も、暴雨(にわかあめ)の役に立たねば、手遠き願いを捨てて、近道に、それそれの家職を励むべし。
福徳は、其の身の堅固に有。朝夕、油断する事なかれ。
殊更、世の仁義を本として、神仏をまつるべし。-井原西鶴「日本永代蔵」より抜粋-
永き世の 遠の眠りの みな目覚め 波乗り船の 音のよきかな(縁起枕絵-宝船-)