男は女を長い間見つめていて、
女も男が自分を見つめていることはわかっていたし、
男は女が、自分が相手を見つめているのを知っていることを知っていたし、
自分が知っていることを相手が知っていることも知っていた。
二枚の鏡を向かい合わせたときにできる像が後退していくように、その像はどこまでもどこまでも、ある種の無限大に向かっていく。
-ロバート・パーシグ「ライフ」-
映っているのは、ガラスに留まっている物体だろうか。その向うのここに立つこの物体までだろうか。
見ている、見えているものの実物大は、ガラスまでの距離に比例するのか、それとも二乗に比例しているのか。
私は、見えている自分に対して、ひとへのそれと同様に、間合いを取れるだろうか。
この焼けた禿頭のしていることを、私ははたして、どれほど見つめ知っていると言えるのだろう。
鏡は一枚では自分を映すだけだが。