![Cheap_thrills Cheap_thrills](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/d8/4f59314f99a3d01c73e1fc6fd8e5ee1a.jpg)
「きーよ」という名前は、ただちにひとりの少女の名前をボクに呼び起こす。キーヨという少女だ(彼女の事は、「電脳・風月堂」の「MILK_TEA」に触れてある)。キーヨは高校を中退して16歳で、ボクらの前に現れた。彼女は「新宿風月堂」で、ボクと兄弟の契りを結んだユタカの実の妹だった。キーヨは、油絵を描いていたが、その彷徨とともに次第に詩を書き、ボクらの東伏見のコミューンへ手刷りの最新詩集を送付してきた。ボクはキーヨが多用する「あたし」という言葉に目眩を覚えていた。きーよの書く一人称の「あたし」には不良少女のような体制に反抗する少女の、はつらつたるスタンスがあった。
キーヨはそのやや猫背の姿かたちが、どこかジャニス・ジョプリンを彷佛とさせるところがあった。まったくの同時代、サマー・オブ・ラブ渦中のサンフランシスコで、ビッグ・ブラザーとホールディング・カムパニーは産声をあげた。アンダーグラウンドのシーンでしか活躍していなかったが、「チープ・スリル(CHEAP THRILLS)」で、聞かせたジャニスの歌声は、彼女が白人とは信じられないくらい黒くこのアルバムを聞いたリスナーはたましいを鷲掴みにされてしまった。
それに、このアルバムのジャケット・デザインをしたロバート・クラムの名前も高くさせるが、クラムもアングラ・ペーパーやマガジンにイラストレーションを提供するアングラ・イラストレーターだった。のちにクラム自身もアルバムを出すほど音楽に造詣が高かった。
そして、ジャニスはドラッグに溺れて死んだ。ヘッド・レボリューションの先頭を走っていたのだから、当然の成りゆきだったのかもしれない。そして、そのジャニスもまたさびしがりやの女だったらしい。「さびしんぼぅ」という鎖につないだ鉄の玉をひきずっていたのだ。そう「BALL & CHAIN」の歌のように。
そして、まるでベッシィ・スミスのようにしわがれた潰した声をふり絞って歌うジャニスの歌声は、ブルージィだ。とりわけ「SUMMER-TIME」のジャニスは……。
「SUMMER-TIME」のリリック(歌詞:ガーシュインの実兄アイラの手による)の反語的な悲しみを、ジャニスほど明確に歌ったシンガーはいなかっただろう。「SUMMER-TIME」は、本当に奇妙な「子守唄(ララバイ)」なのである。