風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

つげ忠男の描線のこと

2018-07-06 20:23:32 | まぼろしの街/ゆめの街
劇画家つげ忠男の魅力は、そのGペンの筆致なのだ。まるで、情念が迸るような描線は、まさしく作品執筆当時の日々の重労働がもたらすものだった。
白いケント紙上に描かれた風景が、風景画を超えてゆく。その粗いとも言えるつげ忠男の描線は、私たちに何かを訴えてくる。何を?
絵画の技法にフロッタージュという技法がある。シュールレアリズムの技法でマックス・エルンストが始めたと言われている。「擦(こす)る」という意味のフランス語「rotter」に由来する。木肌や、年輪や、壁の凹凸の上においた紙や布に、上からクレヨンや、鉛筆でこすり木肌や、凹凸を転写するという技法だ。ある意味では素朴な技法なのだ。
つげ忠男の描線は、あたかも自らの深層の情念や、ルサンチマンを転写するかのように執拗に力を込めて引かれ、フロッタージュのように過剰だ。そのGペンで情念を転写したかのような描線は、数十年の時を隔てても、未だそこに留められて時間が止まったかのように見える情念そのものだった。複製芸術である劇画のザラザラした粗い紙に印刷された作品は、戦後の焼け跡闇市で低俗エログロ路線で売る目的で印刷された「赤本」(江戸時代からの絵草紙)や「カストリ雑誌」の派生物でもあったとも言えるのだ。
「劇画」はそれ自体、フィルム・ノアール(暗黒街、ギャングもの)やヌーベルヴァーグの影響を受けてきた。「劇画」の黎明期には、それこそ映画を丸写ししたような作品もあり、つげ忠男の実兄であるつげ義春もチェコ映画『夜行列車』をそのまま作品化した作品があるが、さすがに作品集には収録されていない。しかし、この作品はとりわけ両者を知っている私が見ても、愛好する作品でありいたく残念なのである(掲載された貸本劇画誌を私は所有している)。
かような歴史の中にある「劇画」作品であるからこそアウラとして東映ヤクザ映画の空気をまとったつげ忠男の『無頼平野』『無頼漢サブ』の風景は、元にして参考としただろう風景写真や現実の風景を超えて記憶の中の「戦後風景」を私たちに感覚させる。フロッタージュに見紛うつげ忠男の粗い線が、遺憾なく戦後という情念を浮き上がらせているのだ。  (2018年7月5日 記)

画像は下記の「オフノート」サイトからお借りしました。お許しください。
(「オフノート」では、この『無頼漢サブ』の生原稿及び他のポストカードなどを販売なさっています。ファンの方には垂涎のものでしょう)
http://www.offnote.org/SHOP/FOU-121.html


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1 コメント

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つげ漫画の雰囲気 (根保孝栄・石塚邦男)
2019-01-03 01:16:30
つげ漫画の雰囲気はシュールリアリズム。
リアルのなかに不気味な甘さを漂わせる。
日本的情念の世界、湿度の高い腐臭漂う甘さ・・か。
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