■Crossroads / Cream (Polydor / 日本グラモフォン)
全てがブッ飛ばされる瞬間って、誰しも一度は経験するものでしょうが、サイケおやじにとっては、このシングル曲もそのひとつでした。
演じているクリームはご存じ、エリック・クラプトン(g,vo)、ジャック・ブルース(b,vo)、そしてジャンジャー・ペイカー(ds,per) というトリオで、それまでのロックの既成概念を大きく逸脱しながら、新しい可能性を見事に提示したバンドでしたが、その凄い部分が日本では、リアルタイムできちんと伝わっていたかといえば、答えは否でしょう。
クリームと他のバンドの一番の違いは、レコードで世に出る演奏とライブの現場での音が完全に異なっていることですが、それは極めてジャズに近いアドリブの応酬でした。
もちろんクリーム以外のバンドにしても、実際のステージではレコードと同じ演奏や音を出しているわけではなく、間奏や全体の纏め方が異なっているのは当然なのですが、それは失礼ながら、ある種の「ごまかし」であり、ミスを転じてスリルになっている事が少なくないのです。
しかしクリームは、それを意図的にやっていたんですねぇ。
つまりロックンロールのジャズバンドというか、ジャズで言えば「テーマ」にあたる曲メロ演奏と歌があって、間奏のパートがアドリブ! それもギンギンにドロドロ!
このあたりが当時の日本では音楽マスコミの伝え方がイマイチ上手くなくて、少年時代のサイケおやじにしても、クリームは凄いらしいが、それは……??? という気分でした。
ところが昭和44(1969)年になって、ようやく日本でも発売された名盤アルバム「クリームの素晴らしき世界 / Wheels Of Fire」のライブパートに入っていた演奏を聴けば、それは怖いほどに真実を突いていたのです。
ちなみに、その「クリームの素晴らしき世界」は欧米では前年に2枚組LPとして世に出たのですが、どういうわけか日本では1枚目のライブパートが「金色」、もう1枚のスタジオパートが「銀色」という、オリジナルデザインを色分けした単独アルバムという形式で発売されています。
それでも1枚が1750円でしたからねぇ……。中学生だった私には、とても買えません。しかし友人が持っていた、その「金色」を聞かせてもらってからは、あまりの衝撃に唖然とするほどでした。
特にA面ド頭に入っていた「Crossroads」の物凄さ!
スピード感満点にカッコ良すぎるキメのリフからスタートし、ドカドカ煩いドラムスとグイノリに蠢くエレキベースに後押しされ、幾分不安定なエリック・クラプトンのボーカルがあって、ついに鳴り響くギターソロの恐ろしさ! 全くそれまで聴いたことのなかった世界でしたねぇ~。音色もフレーズも、またノリそのものが、それまでのロックやR&Bとは完全に異質でした。また背後から襲いかかってくるが如きジンジャー・ベイカーのドラミングも容赦なく、さらに好き勝手に弾いているとしか思えなかったジャック・ブルースのエレキベースが、完全に私の好きな世界です。
それは既にザ・フーのジョン・エントウィッスルやゴールデンカップスのルイズルイス加部の演奏によって知っていたスタイルではありましたが、ジャック・ブルースの演奏はさらに飛躍していたというか、今になって思えば、それはジャズ!
ちなみにジャック・ブルースもジンジャー・ベイカーも当然ながらジャズバンドでの活動がクリーム以前にあったわけですが、それにしてもロックビートでそれをやってしまう発想と実力は凄すぎますねぇ~♪
しかしエリック・クラプトンの存在感は、そんな諸々を完全にブッ飛ばす勢いで、特に2回目のギターソロに入った瞬間の、まさにロックンロールの突然変異的なフレーズと「泣き」が「官能の叫び」に覚醒したようなギターの音色! もちろん当時はセックスなんかしたこともなかったサイケおやじにしても、ここでのバンド各人の絡みは、なんか野獣のような性行為を妄想させられる瞬間までありました。
バンド全体のグルーヴは明らかに「前ノリ」だと思うのですが、エリック・クラプトンのギターソロは独特のタメとモタレがブルースの本質を維持しつつ、完全に「ロックギター」の新しき夜明けという感じでしょうか?
そしてLPが買えなかった私がゲットしたのは、本日ご紹介のシングル盤というわけですが、それにしてもレコード屋の店頭で手にしたジャケットの???の気分は、今でも鮮烈です。
だって演奏は完全にエリック・クラプトンが主役なのに、ジャケ写ではジンジャー・ベイカーのでっかい顔が!?! まあ、当時の雑誌に載っていたクリームの写真にしても、メンバーは長髪に髭、さらに「老け顔」だったとはいえ、これはねぇ……。
ということで、「Crossroads」で完全にエリック・クラプトンに魅了された私は、ビートルズに客演した「ホワイトアルバム」での「While My Guitar Gently Weeps」とか、クリームの他のレコード、ブラインド・フェイスやデレク&ドミノス、さらにゲスト参加していた様々なセッションレコーディングも聴いていくのですが、個人的な気持ちとしては、エリック・クラプトンは、やはり「Crossroads」が最高!!!
ちなみに「Crossroads」は天才ブルースマンだったロバート・ジョンソンのオリジナルで、歌の内容には十字路で悪魔に魂を売るとか、神様に出会うとかいう話らしいというのは後で知ったことですが、とすれば、エリック・クラプトンがクリームの時代に既に「神様」扱いだった事も、納得する他はありません。
実際、ここでのエリック・クラプトンは人間を超越した、何かを感じさせます。
極言すれば、これを聴いていたからこそ、後にエリック・クラプトンがレゲエや気抜けのビールのようなレイドバック、さらにグチっぽい「Wonderful Tonight」をやっても、私は笑っていられたのかもしれないのです。
そして何時か再び、神様は「Crossroads」の瞬間に降臨するはず!
本当に、そう思います。