OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

キャロル・キングのニューソウルな夢

2009-07-13 10:34:42 | Singer Song Writer

Fantasy / Carole King (Ode)

世紀の傑作「つづれおり」を筆頭にするキャロル・キングの名作アルバム群の中にあっては、ちょっと異質の1枚だと思いますが、スティーヴィー・ワンダーの名盤「Talking Book (Tmala)」を聴き狂っていた1973年のサイケおやじを夢中にさせた、これも青春の思い出という愛聴盤です。

確かアメリカで発売されたのは1973年の春頃だと思うのですが、ちょうど日本の梅雨明け時にはラジオ放送からアルバムが丸ごと流されていましたですね。それは全体の作りにトータル性があったからでしょう。

実際、アナログ盤はAB両面に別れていますが、収録の歌と演奏には曲間がなく、LP片面がメドレー形式になっているのです。

 A-1 Fantasy Beginning
 A-2 You've Been Around Too
 A-3 Being At Way With Each Other
 A-4 Directions
 A-5 That's How Things Go Down
 A-6 Weekdays
 B-1 Haywood
 B-2 A Quiet Place To Live
 B-3 Welfare Symphony
 B-4 You Light Up My Life
 B-5 Corazon
 B-6 Belive In Humanity
 B-7 Fantasy End

まず特筆すべきは、そのサウンドスタイルが当時流行のニューソウル色に染まっていることです。そしておそらくは初めてでしょうか、全ての曲がキャロル・キングの単独作品なんですねぇ~。

そのサウンド面の要は参加メンバーにあって、デヴィッド・T・ウォーカー(g)、チャールズ・ラーキー(b)、ハービー・メイソン(ds)、ボビー・ホール(per)、さらにキャロル・キング(p,key) から成るリズム隊が最高にしなやかで強靭! もちろんそれはモータウンやフィリーといった都会派ソウルのグルーヴであり、ジャズっぽくてロックの芯も失っていないという、後年のAORやフュージョンの先駆けでもありました。

そしてそこへトム・スコット(sax,fl)、アニー・ワッツ(sax,fl)、ジョージ・ポハノン(tb)、チャック・フィンドレイ(tp) 等々の超一流ホーンセクションやストリングスが加わるという重厚な布陣ですから、たまりません。

このあたりは前作アルバム「Rhymes & Reasons」の一部でも既に実現していたわけですが、シンガーソングライターとして本格的にスタートしたソロ第一弾「Writer」以来の付き合いだったジェムス・テイラー(g) やダニー・コーチマー(g)、ジョエル・オブライアン(ds)、ラス・カンケル(ds) といった盟友と別れた意味合いも強く感じられるのです。

そしてキャロル・キング自身が作るメロディは、持ち前の仄かに暗いAメロから開放感のあるサビの展開という黄金律が自然体で冴えわたり♪♪~♪ それがメドレー形式だと、さらに気持の良い流れになっているのです。

演奏面でもハービー・メイソンのシャープでファンクなドラミング、デヴィッド・T・ウォーカーのジャズもソウルもゴッタ煮のメロウなギター、チャールズ・ラーキーの自在に蠢いて、さらに飛び跳ねるベース、ラテンもロックもソウルもお任せというポビー・ホールの打楽器が、全ての面でキャロル・キングの歌をがっちりとサポートし、時にはリードしているほどの充実度です。

それはA面初っ端の「Fantasy Beginning」が終わり「You've Been Around Too」が始まるところで煌めくデヴィッド・T・ウォーカーのギター、重心の低いグルーヴを叩き出すハービー・メイソンのドラムス、黒いフィーリングがいっぱいのキャロル・キングの歌いっぷり、そして彼女だけのメロディ展開を彩るストリングやブラスのアレンジが、ほとんど当時のダニー・ハザウェイやマービン・ゲイ、あるいはカーティス・メイフィールドの世界に近くなっています。

こうした流れはアルバムが進んでいくにつれ、ますます顕著になるのですが、それにしても、どこを切ってもキャロル・キングという金太郎飴的なメロディが、実にサイケおやじの好みにジャストミートしています。

それは裏を返せば、好きな人にしか楽しめない世界かもしれませんし、なんだ……、またかよ……、という正直な気分の皆様も、きっといらっしゃるでしょう。しかしそれを飽きさせないのが、ここで繰り広げられている演奏の妙技じゃないでしょうか?

特にデヴィッド・T・ウォーカーのギターが全篇で素晴らしく、私はこのアルバムでデヴィッド・T・ウォーカーに強くシビレました♪♪~♪ そして以降、この人の演奏を意識して聴くようになるのですが、ここでは「Directions」の圧巻のパッキング、「Haywood」での異次元ファンキーなフィーリング、しぶといイントロやバックの合の手が流石の「Welfare Symphony」、ソフトな黒っぽさがメロウな「You Light Up My Life」はオカズの美味しさに思わず舌鼓ですよっ♪♪~♪

またハービー・メイソンにしても、このアルバムが出会いだったというか、同年に出たハービー・ハンコックの「Head Hunters (Columbia)」と共に、まさに瞠目させられるほどカッコ良いドラマーだと思いましたですね♪♪~♪

肝心のキャロル・キングは、まず鍵盤奏者としての実力も決して侮れないと再認識しています。彼女は元々はソングライターとして1950年代からの実績があったわけですが、そこではユダヤ人モードで作られたスタンダードのコード進行をロックンロールの8ビートに乗せるという「型」を確立させていただけに、ジャズの素養も充分ですから、ここでも違和感がありません。随所でキラリと光るピアノの伴奏というか、弾き語りの味わい深さに加え、このセッションではオルガンも素敵♪♪~♪ 特に「That's How Things Go Down」の間奏には嬉しくなりますよ。

そして彼女が独りで書いた歌詞の中身も、それまでの作品に染み出していた女性としての生き様や愛の形よりも、社会的なメッセージ性や政治的な提言が強くなっているようです。なにしろアルバムタイトル曲では、「ファンタジーの世界では、私は黒くも白くも、女にも男にもなれる」なんて言い切っていますし、反戦や悪いクスリの害悪、貧困や人種差別、孤独やシングルマザーの哀しみ……、等々がグリグリに提出されていきますから、それだけ聴いていると重苦しいムードに包まれるほどです。

実際、このあたりは英語が完全には分からない日本人で良かったと思うほどですが、そうした気分をスカッとブッ飛ばしてくれるのが、ラテンフュージョンで演じられるラブソング「Corazon」のファンキーな楽しさでしょう♪♪~♪ ハービー・メイソンとポビー・ホールが作りだすリズム的な快感、さらにバンドが一丸となったグルーヴがたまりませんし、スカッとするキメのホーンリフも痛快です。

それが「Haywood」では、グッとシンプルなノリになっていて、実は個人的には、こっちの方が好きかもしれません。チャールズ・ラーキーが実に良い感じですし、ちょっとヘヴィな雰囲気が逆に好ましいところ♪♪~♪ おぉぉ~、ダニー・ハザウェイ!?

そしてアルバムのクライマックスは力強く人間の愛と義を歌い上げる「Belive In Humanity」で、そのファンキーロックなグルーヴは最高潮! 「私は間違っているかもしれないが、人間性を信じたい」という切なる願いは、アルバムタイトルどおりに夢物語でしょう。しかし、今の時代には本当に必要かもしれませんね。

ということで、演奏面ではストリングやブラスのアレンジも含めて、キャロル・キングが当時やりたかったことがストレートに表現された傑作だと思います。ただし、それ以前の作品に比べると売上はイマイチだったようですし、マスコミからのウケも良くありませんでした。おそらくは歌詞の中身の問題が大きいように推察しておりますが、いかがなもんでしょう。

その点、繰り返しますが、英語が完全に理解出来ないことが、ここでは結果オーライ! ニューソウルど真ん中で作られたサウンドの魅力、そしてキャロル・キングがワン&オンリーのメロディを楽しめれば、それはそれで素敵だと思います。

ちなみに私は両面ともに甲乙つけがたいほど愛聴しておりますが、ただ「That's How Things Go Down」から「Weekdays」へと続く流れが好きなので、A面に針を落とすことが多いです。ここは、ほとんど初期のユーミンや吉田美奈子、ですよっ♪♪~♪

しかし、これがCDでアルバム全体をブッ通して聞いても、やはり最高♪♪~♪ ですから、車の中には常備しているほどなんですが、やっぱりA面を律儀に聴き終え、レコードをひっくり返してB面に針を落とすという儀式が、このアルバムへの敬意という気もしています。

そして最後になりましたが、当時はキャロル・キングと結婚していたチャールズ・ラーキーのペースが、最高に好きです、と愛の告白♪♪~♪ さらにアルバム全体のニューソウルな味わいが、サイケおやじには今もって必須な生活条件なのでした。

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