OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スライ・ストーンのファンクな飛び蹴り

2009-07-16 10:56:30 | Soul

Fresh / Sly And The Family Stones (Epic)

スティーヴィー・ワンダーの「トーキング・ブック (Tmala)」やキャロル・キングの「ファンタジー (Ode)」を聴き狂っていた昭和48(1973)年のサイケおやじを、更なるファンク天国へと誘ったのが、本日ご紹介の通称「飛び蹴り」、あるいは「ライダーキック」というスライのアルバムでした。

主役のスライ・ストーンはテキサス生まれの黒人ですが、幼少の頃からサンフランシスコで育ち、ゴスペルやR&Bを歌いながら独学で様々な楽器を習得し、やがて地元ラジオ局のDJとして人気者になり、そこでは黒人歌謡だけでなく、ビートルズやボブ・ディラン等々の白人流行音楽も積極的に流していたと言われています。これは人種差別が当然だった1960年代のアメリカでは、ラジオ局そのものも含めて、番組自体が白と黒に偏向されていた時代背景からすれば、いくらサンフランシスコという自由の空気が濃密な地区だったとしても、相当に独創的な事だったと思われます。

そしてスライ・ストーンは地元のマイナーレーベルでレコード制作の仕事も出がけるようになり、ついには自分のバンドを結成し、それがスライ&ファミリーストーンでした。

ちなみにスライ・ストーンの本名はシルヴェスター・スチュワートですが、スライの芸名を使うようになったのはラジオDJ時代からで、「小賢しい」という意味が強い「スライ」という言葉を選ぶあたりが、後年のクールで熱い活動を象徴しているように思います。

気になるバンド活動はスライ・ストーン(vo,g,key)、フレディ・ストーン(g,vo)、ラリー・グラハム(b,vo)、グレッグ・エリコ(ds)、シンシア・ロビンソン(tp,vo)、ジェリー・マルティーニ(sax) という白黒男女混成という強烈な存在としてスタートし、そのロックもR&Bもジャズもラテンもゴッタ煮とした音楽性とリアルで斬新な歌詞、熱気満点のステージライブによって、忽ち人気沸騰! 1967年に出したデビューアルバム「新しい世界」から大ヒット作を連発しています。

その中で特に世界中へスライの凄さを印象づけたのが、1969年に開催されたウッドストック音楽祭でのステージで、これは映画になりましたから、尚更に大ブレイク! 告白すればサイケおやじも、その映画で観たファンキーロックに燃え上がる演奏で興奮させられ、劇場からの帰り道でレコード屋に直行! 「スライと踊ろう / Dance To The Music」なんていうLPを買ったのが、その出会いでした。もちろん後は大熱中♪♪~♪

そうした中ではマイルス・デイビスがスライに夢中だとかいう噂も、嬉しいものがありましたし、後に世紀の名盤と認定される「スタンド」あたりは、世界中のミュージシャンが好きなアルバムと公言するほどにウケていたのですが、残念ながら我が国では、スライ&ファミリーストーンという存在そのものが、それほど人気があったとは言えません。

しかも前述した「ウッドストック」の映画が公開された後の1971年頃からは、スライ・ストーン本人の活動が、ちょいと内省的というか、怖いファンクとドロドロの感性がミックスされ、ほとんどの楽器を自分でやってしまったという「暴動」なんていう極みの混濁アルバムを出して以降は、沈黙期に入ってしまうのです。

いゃ~、今でこそ、この「暴動」は愛聴出来るようになりましたが、当時は困惑させられましたですねぇ~。音楽マスコミでは絶賛されていたんですが、本当にそう思って文章を書いていた評論家の先生方の気持ちを、失礼ながら疑ったほどですよ……。

そして時が流れました。逼塞しいていたスライが久々に新譜を出すという情報が流れ、ついに発売されたのが、「輪廻」なんていうアブナイ邦題がつけられた、本日ご紹介のアルバムです。

 A-1 In Time
 A-2 If You Want Me To Stay
 A-3 Let Me Have It All
 A-4 Frisky
 A-5 Thankful N' Thoughtful
 B-1 Skin I'm In
 B-2 I Don't Know (Satisfaction)
 B-3 Keep On Dancing
 B-4 Que Sera, Sera
 B-5 If It Were Left Up To Me
 B-6 Babies Makin' Babies

まずA面ド頭の「In Time」が強烈! 一瞬、サンタナ!? みたいなラテンパーカションが鳴ったかと思うと、直ぐにリズムマシーン系のビートがスタートし、そこへシンコペイトしまくったドラムスとエレキベースが割り込んでくるという仕掛けに悶絶させられます。

ちなみに、この時点でのバンドはメンパーチェンジがあり、ロージー・ストーン(key,vo)、ラスティ・アレン(b)、アンディ・ニューマーク(ds)、パット・リッツォ(sax,fl) が交代参加し、さらにリトル・シスターと名乗る三人組の女性コーラス隊までもがジャケットに表記されいますが、アンディ・ニューマークは以降も様々なバンドやセッションで大活躍していく白人の凄腕ドラマーとしてご存じのとおり♪♪~♪ またラスティ・アレンは当時は十代ながら、物凄いペースワークが全篇で冴えわたりですよっ!

それは意図的に抑揚の無いメロディを倦怠感を強調して歌うスライとは逆に、カッコ良すぎるシンプルなホーンのリフ、ゴスペル風味が濃厚な女性コーラス隊、さらにシャープでクールなドラムスとベースが鋭く自己主張していく5分半強のファンク天国♪♪~♪

このあたりは、やはり同年に発売されたカーティス・メイフィールドの傑作アルバム「バック・トゥ・ザ・ワールド (Budda)」やニューオリンズファンクのミーターズ等々にも通じる快感です。

さらに続く「If You Want Me To Stay」が、これまた感涙♪♪~♪ サイケおやじが生涯の愛聴曲「Sunny」を快感ファンクに焼き直したような確信犯的名演で、これは確か、当時シングルカットされ、FENでも流されていましたですね。とにかくスライの投げやりで猥雑な歌いっぷり、キーボードの隠し味とタイトなドラムス、さらに直截的なベースや単純明快なネタばれホーンリフが、最高の気持ち良さ♪♪~♪ あぁ、永遠に聴いていたいほどです。

こうしたファンクピートの快楽は、続く「Let Me Have It All」や「Frisky」、さらに「Keep On Dancing」や「If It Were Left Up To Me」といった従来路線の曲においても絶大な魅力となり、その革新的とさえ評価されたリズムとビートのコンビネーションは、スライと女性コーラスの歌を尚更に盛り上げていきますが、むしろそうしたリズム隊に耳が先に行ってしまっても許されるでしょう。おそらくそれがスライの狙いなのかも? なんて極端な推察までしています。

その意味で本当はつまらない曲と演奏かもしれない「Thankful N' Thoughtful」にしても、不思議と高揚した気分で聴けるんですから、これも深遠な目論見ですよねぇ~♪

そしてB面に入っては、ほとんどマイルス・デイビスの電化トランペットが出てきそうな前奏から黒い魂の迸りが強烈な「Skin I'm In」で、いきなりの剛球勝負! 伝統的なソウルグルーヴを大切にしたホーン隊、ジャズファンクなリズム隊の働きも抜群です。

またタイトルどおりにストーンズを揶揄してんのかっ!? と思わず言いたくなる「I Don't Know (Satisfaction)」の憎め無さ! 怒るより前にニンマリさせられますが、これは賛否両論というか、冗談が通じなくても熱くなってはいけませんよね。

それは、アッと驚く選曲となった「Que Sera, Sera」でも同じでしょう。あのドリス・デイの「ケ・セラ・セラ」ですよっ! それをゆるやかなファンクのグルーヴを存分に活かし、心地良い倦怠感として表現するスライ&ファミリーストーンの歌と演奏は、ソフト&メロウでもあり、黒人ならではのセンスの良さの最高峰でもあり、これも聴かずに死ねるかの決定版! 私の葬式には流して欲しいほどの候補曲でもあります。

しかし、そうした至福の時間を見事に覆してくれるのが、オーラスの「Babies Makin' Babies」で聞かれる不気味な躍動感というか、希望と悪い予感を同時に表現してくれたような歌と演奏です。意図的に柔軟さを避け、硬質なグルーヴに徹したリズム隊が逆に良い感じ♪♪~♪

ということで、これは今でも私の愛聴盤ベスト選には、ノー文句で入るというアルバムです。なによりもファンクなドラムスとベースを聴いているだけで気分は最高♪♪~♪ スライのボーカルも時には熱く、また時にはトホホなオトボケが本当に適材適所! 演奏の細かい部分とまで、しっかりと連携している緻密な作りが確かにあると思います。

しかし現実的には我が国では当時、ほとんどヒットしていません。洋楽マスコミはロック優先でしたし、その頃はサザンロックやウエストコースト物が人気を集め、シンガーソングライターのプームは深化し、グラムロックやフログレという分野も決してアダ花では無かったのです。

結局、同じニューソウルでもスライ&ファミリーストーンのような革新的なファンクよりは、もっとメロディ優先主義のモータウンやフィリーといった流行が日本でも確かにあり、それは後にディスコブームへと直結していくのですが、そう言われれば、このアルバムで聞かれるような音楽じゃ、日本人は踊るのが至難でしょうねぇ……。

ただし、こういうシンコペイトしまくったファンクの快感は、虜になって聴けば絶対! 暑い夏にも効果は絶大ですよ。ジャケ写どうり、ファンクな蹴りをキメたスライが最高に潔いです。

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2 コメント

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SLY (col)
2009-07-20 16:51:16
それなりにブラック・ミュージックかじってる人も、今こそスライを聴き直し!ですねー

最近映像も含めて、何回目かのマイ・スライ・ブームが来ています
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スライ今昔 (サイケおやじ)
2009-07-21 09:08:43
☆col様
コメントありがとうございます。

スライの発掘音源では、ウッドストックのライブも最近は出ているようですね。私は、まだ聴いていませんが、これには期待しています。

映像物も、チェックいれておきますね。

ちなみに日本じゃ、スライが本格的にブレイクしたことは、今まで一度も無いと思われますが、ひとりひとりは熱狂的なファンが多いというのも、不思議といえばそのとおりです。
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