■The Cat Walk / Donald Byrd (Blue Note)
モダンジャズではトランペットとバリトンサックスという黄金の組み合わせが、なかなかの人気を集めた歴史があります。例えば一番有名なのがチェット・ベイカー(tp) とジェリー・マリガン(bs) の名コンビですが、他にもケニー・ドーハム(tp) とチャールズ・デイビス(bs) というイブシ銀のコラボレーション、そしてドナルド・バードにペッパー・アダムスの真正ハードバップ組には心底、心が踊ります♪♪~♪
まあ、このあたりはモダンジャズでの超一流バリトンサックス奏者の少なさが残念なほどですが、それゆえに今日まで残されたアルバムは、何れもジャズ者には必須の「お宝」だと思いますし、特に本日ご紹介の1枚は長年の個人的な愛聴盤のひとつです。
録音は1961年5月2日というハードバップが完熟した黄金時代! メンバーはドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、デューク・ピアソン(p)、レイモン・ジャクソン(b) という当時のレギュラーバンドにフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) が参加したという素敵なバンドですが、ちなみに、それまでのレギュラードラマーだったレックス・ハンフリーズは何らかの事情で外れ、ドナルド・バードは次なるレギュラーとしてビリー・ヒギンズ(ds) とハービー・ハンコック(p) を雇い入れる直前という過渡期の記録としても、なかなか興味深いと思いますし、結果はもちろん、最高!
A-1 Say You're Mine
デューク・ピアソンという隠れ名曲を数多く書いているコンポーザーの代表的なメロディと味わいが堪能出来るだけで、幸せな気分になれるのは私だけでしょうか。ちょっとばかり「屋根の上のバイオリン弾き」を連想させられるムードには思わずニヤリですし、全体は仄かに暗いソフトファンキーな「節」がいっぱい♪♪~♪
ですからドナルド・バードのミュートトランペットも、何時も以上の歌心優先主義が完全に成功した味わい深いものですし、ペッパー・アダムスも持ち前の豪放な音色とバリトンサックスの魅力たる「鳴り」を活かしきった素敵なアドリブを聞かせてくれますよ。
そして特筆すべきは、やはりフィリー・ジョーのビシッとしたドラミングで、ミディアムテンポのグルーヴを時には倍テンポで煽り、さらにクッションの効いた独特のリックで4ビートの魅力を堪能させてくれるのですから、たまりません。
また気になる作者のデューク・ピアソンは、流石にツボを押さえた堅実な助演ぶりというか、決して派手なプレイは聞かせてくれませんが、トミー・フラナガンにも通じるようなジェントルな味わいと原曲メロディの膨らませ方には、グッと惹きつけられます。このあたりは演奏全体のふくよかな展開にも、大いに貢献していることが、聴くほどに明らかになるのですが、この人のような名参謀の存在こそが、モダンジャズでは経営維持が難しいとされるレギュラーバンド成功の秘訣だったのかもしれません。
ちなみにこの曲はデューク・ピアソン自身にとってもお気に入りだったようで、数少ないリーダー盤の中でも数回の録音が残されていますから、例えば同年に作られた代表盤の「エンジェル・アイズ (Polydor)」に収録されたトリオパージョンと聴き比べるのも、楽しいかと思います。
A-2 Duke's Mixture
これもデューク・ピアソンのオリジナルで、前曲とは一転してのファンキーゴスペル大会が素晴らしい限り♪♪~♪ フィリー・ジョーの楽しげなバックピートやレイモン・ジャクソンの足踏みしているようなベースワークにはノッケからウキウキさせられますよ。イントロだかテーマだか区別も付かないデューク・ピアソンのピアノも流石です。
そしていよいよ合奏されるテーマメロディのファンキーな気分が実にほどよいマンネリムードで、たまりませんねぇ~♪ これぞっ、本当に「全て分かっている楽しみ」っていうものでしょう。
ですからドナルド・バードもペッパー・アダムスも、こちらが思っているとおりのアドリブフレーズをテンコ盛りの大サービス! いきなり思い出し笑いみたいな十八番を聞かせるドナルド・バードは、やっぱり素敵ですし、合いの手だけで組み立てたようなペッパー・アダムスのバリトンサックスを煽るフィリー・ジョーという構図も、最高に美しいです。
しかし正直言えば、こういう曲調になればこそ、デューク・ピアソンのソフトなフィーリングがファンキーへと拘るほどに、違和感があるのも確かでしょう。個人的にはウイントン・ケリーを強く希望してしまうのですが、それを補うのがトランペットとバリトンサックスのメリハリが効いたバックリフなんですから、これも計算された予定調和のスリルなのかもしれません。
A-3 Each Time I Think Of You
という前曲にあった些かにの煮え切らなさをブッ飛ばすのが、これまたデューク・ビアソンのオリジナルという傑作ハードバップ曲です。独特の「節」を持ったメロディラインの妙は、歌物と呼んでさしつかえないほどでしょう。
アップテンポで終始、快適なクッションを送り出すフィリー・ジョーの強い存在感も冴えわたりですし、こういう曲と演奏があるからこそ、ハードバップ中毒がますます進行するのだと思います。
そしてアドリブ先発のペッパー・アダムスが奔流のような歌心フレーズの勢いを聞かせれば、さらにハートウォームで力強いドナルド・バードのトランペットは、音色そのものも大きな魅力になっています。またデューク・ピアソンのピアノが一段と「トミフラ節」に接近しているのも、なかなかニヤリの名場面じゃないでしょうか。
B-1 The Cat Walk
B面に入ってはアルバムタイトル曲の演奏が、まずは秀逸の極みです。
如何にもドナルド・バードが書いたに相応しく、ファンキーでゴスペルなムードとストップタイムを巧みに使った構成の見事さは、過剰に飛躍すること無く、それでいて新時代のモダンジャズを強く想起させるものだと思います。
ですからドナルド・バードのトランペットは、ここぞとばかりに好フレーズを連発する潔さですし、仄かにマイナーな雰囲気も良い感じ♪♪~♪ そしてペッパー・アダムスのダークな歌心も絶好調ですよ♪♪~♪
するとデューク・ビアソンが、次は俺に任せろ! その素晴らしすぎるピアノの味わいは、全く短いのが悔やまれるほどの名演だと思いますが、そこへ襲いかかってくるが如きファンキーなホーンリフとのコントラストにも、思わず腰が浮くほどの快感を覚えます。
B-2 Cute
これはお馴染みというか、二―ル・へフティが書いた楽しいリフ曲なんですが、カウント・ベイシー楽団が歴代レギュラードラマーの見せ場として演奏するという趣向が、ここでは特別参加のフィリー・ジョーゆえに、最高のハードバップに結実しています。
とにかく初っ端から炸裂するフィリー・ジョーだけのドラミング、それに続く猛烈なスピードのアドリブパートでは、ドナルド・バードの全力疾走が全盛期を証明していますが、当然ながらペッパー・アダムスも豪快なツッコミで大健闘! 煽るはずのフィリー・ジョーが押される場面さえあるのですから、強烈至極ですよっ!
そしていよいよ始まるドラムソロの痛快天国は、ハードバップが最良の瞬間でしょう。ここに聞かれるような名演をライブ現場でも、当時は普通に楽しめたわけですから、タイムマシンが欲しくなるのは必定です。
B-3 Hello Bright Sunfolwer
オーラスは、まるっきりスタンダード曲のような可憐なメロディが素敵なデューク・ピアソンのオリジナル♪♪~♪ ドナルド・バードの小粋なミュートとフィリー・ジョーのブラシの名人芸が演奏を楽しくリードしていく前半部分だけで、ジャズを聴く楽しみを満喫してしまうこと、請け合いです。
しかし演奏は後半部分に至り、フィリー・ジョーがスティックに持ち替えたところからグイグイと熱くなり、何時しか存在感を強くしているデューク・ピアソンのピアノも流石ならば、鋭角的なフレーズも交えたペッパー・アダムスが本来の持ち味を損なうことなく、なおさらに重厚な歌心を披露するという、まさにハードバップがど真ん中の名演になっているのでした。
ということで、これもモダンジャズ全盛期の中で誕生した名作アルバムだと思うのですが、それゆえに見過ごされがちいうか、聴くチャンスが以外に少ない隠れ名盤かもしれません。実際、ドナルド・バードに限っても、この前後にはブルーノートを中心に人気盤が何枚も存在しているのが、なんか悔しくなるほどに、このアルバムは充実しているのです。
それは主役のトランペットにバリトンサックスという、既に述べた魅力に加え、この時代のスタアドラマーだったフィリー・ジョーの参加が最高の魅力となっているんですねぇ~♪ ドラムスのソロチェンジやロングソロはもちろんのこと、独特のクッションが冴える4ビートの躍動感とハッとさせられるほどに輝くオカズの妙技には、何時聴いてもワクワクさせられます。
また地味ながらデューク・ピアソンの存在感も侮れず、特に4曲も提供したオリジナルの冴えとツボを押さえた助演を聴くほどに、実はプロデューサーのアルフレッド・ライオンは、デューク・ピアソンのリーダー盤を想定していたのではないか!? とさえ思わせる部分を感じるのですが、いかがなものでしょう。
この時代ならではの素敵な車とイカシたファッションでキメるドナルド・バードが写るジャケットデザインも秀逸ですね。