OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マクリーンは甘い物好き!?

2009-07-11 12:19:42 | Jazz

Fat Jazz / Jackie McLean (Jubille)

どんな有名なジャズメンの作品の中にも、聴かず嫌いになっているアルバムがあります。例えばマイルス・デイビスならば「オン・ザ・コーナー」、ジョン・コルトレーンならば「オム」、そしてソニー・ロリンズならば「アワ・マン・イン・ジャズ」というあたりでしょうか。如何にも怖くて前衛フリーのムードが濃厚に感じられるのは、ジャケットのイメージや参加メンバーゆえのこともあるでしょう。まあ、現実的に悪夢のような部分は確かにあるわけですが、虜になったら抜けられない、実に危ない魅力も潜んでいるのです。

さて、本日の主役たるジャッキー・マクリーンの場合で言えば、おそらくはオーネット・コールマンと共演した「ニュー・アンド・オールド・ゴスペル」あたりが筆頭かもしれませんが、どっこい、実はご紹介のアルバムもそのひとつでしょう。

しかし結論から言えば、内容は青春の情熱と哀愁のメロディがテンコ盛りの隠れ人気盤だと思います。

ただイメージ的に敬遠されているのは、チューバでジャズを演じるというレイ・ドレイパーの参加ゆえでしょう。なにしろ、チューバというのは重低音の管楽器ですから、どうしても動きの鈍い、モゴモゴしたフレーズしか出ないと思ってしまうのが当然ですし、そういう先入観念が……。

また参加メンバーの地味~なところも、マイナスイメージかもしれません。

それでも繰り返しますが、内容は極上のハードバップ!

録音は1957年12月27日、メンバーはジャッキー・マクリーン(as)、ウェブスター・ヤング(cor)、レイ・ドレイパー(tuba)、ギル・コギンス(b)、ジョージ・タッカー(b)、ラリー・リッチー(ds) というシブイ面々ですが、これは当時のジャッキー・マクリーンが率いていたレギュラーバンドだったと言われています。

A-1 Filide
 レイ・ドレイパーとジャッキー・マクリーンが共作したオリジナルですが、これがケニー・ドーハムの「Blue Bossa」やハンク・モブレーでお馴染みの「Recado Bossa Nova」あたりを痛切に想起させられてしまう哀愁の名曲ハードバップ♪♪~♪ もちろん当時はボサロックという観点はなかったと思われますが、ラテンリズムとマイナーの胸キュンメロディ、せつなくキャッチーなキメのフックがたまりません。
 そのテーマをリードするのは、当然ながらジャッキー・マクリーンとウェブスター・ヤングであり、レイ・ドレイパーのチューバはアンサンブルの彩というのも分かっているアレンジですし、仄かにハスキーなウェブスター・ヤングのコルネットが良い感じ♪♪~♪ ちなみにこの人はトランペットだと、さらにハスキーな度合が強く、「マイルスもどき」も演じてしまう味な名手なんですが、このセッションではコルネットに徹しているのが結果オーライかもしれませんね。
 肝心のジャッキー・マクリーンは当然ながらギスギスした音色で泣きじゃくるという十八番を存分に披露してくれますよ♪♪~♪ テーマメロディのミソを活かしきったフレーズの味わい深さも最高で、いゃ~、やっぱり1950年代のジャッキー・マクリーンは格別です。
 また既に述べたようにウェブスター・ヤングのプレイが翳りを秘めた歌心優先主義で、私は好きです。
 そして気になるレイ・ドレイパーは、あ~ぁ、やっぱり……、というモゴモゴしたアドリブしか演じていませんが、ハードエッジなリズム隊とのコントラストが面白い味を出していますし、管楽器ではなく、ベースソロでも聞いていると思えば結果オーライでしょうか……。
 ただし、この曲でもわかるように、この人の作曲能力は素晴らしく、ジャッキー・マクリーンはそのあたりを評価していたのかもしれません。

A-2 Millie's Pad
 ウェブスター・ヤングが書いたグルーヴィなファンキーハードバップの隠れ名曲♪♪~♪
 と、くれば、アドリブ先発のジャッキー・マクリーンはタメとツッコミの泣き節をメインにしながら、モダンジャズのブルースフィーリングを全開させた快演を聞かせてくれます。ギル・コギンスの硬質な伴奏も、そのムードを増幅させていきますから、たまりません。
 そしてウェブスター・ヤングが十八番の「マイルスもどき」を演じれば、鋭く呼応するベースとドラムスが良い感じ♪♪~♪ 特に強靭なペースワークが魅力のジョージ・タッカーが強い印象を残します。
 さらにレイ・ドレイパーが、こうしたミディアムテンポでは違和感の無いところでしょう。シンプルなフレーズを積み重ねるアドリブが苦笑いを誘うと言えば失礼は重々承知、それでも正直、和んでしまいます。なにしろ、次に続くのがジョージ・タッカーの剛腕ペースソロですからねぇ~。

B-1 Two Sons
 これまた素敵なハードバップの隠れ名曲といって過言では決してない、実にテンションの高い演奏を見事に導くテーマが最高です。
 そしてアドリブ先発が作者のレイ・ドレイパーという仕掛けもジャストミート! アップテンポで必死の全力疾走には好感が持てます。
 さらに続くジャッキー・マクリーンのアグレッシプな勢いは、まさにハードバップがど真ん中の情熱が高得点! また、ここでもハードにドライヴしまくるリズム隊が魅力満点で、特にドラマーのラリー・リッチーは無名ですが、アート・テイラーやルイス・ヘイズのようなハードバップのパワーに満ちたドラミングが好ましいかぎりです。

B-2 What Good Am I Without You
 あまり有名ではないスタンダード曲ですが、スローテンポで演じられる哀切のメロディをリードするのが、この手の演奏が十八番というウェブスター・ヤングですから、名演は「お約束」です。そこに寄り添うジャッキー・マクリーン、ハーモニーを厚くするレイ・ドレイパーというアレンジも気が効いていますねぇ~♪
 そしてアドリブパートではジャッキー・マクリーンが、こちらの思っているとおりのブルーな心情吐露! ハードボイルドな忍び泣きのはずが、思わず不覚の涙が滲んでしまったという佇まいが、実にニクイです。
 さらに、そんな場面に言葉を失うレイ・ドレイパーをサポートするリズム隊のシブイ働きも、モダンジャズの楽しみでしょうねぇ~♪

B-3 Tune Up
 マイルス・デイビスが書いたことになっているハードバップの定番曲ですが、あのお馴染みのテーマが始まる前に、何故かバンドのチューニングのようなパートが入っています。しかし、これは演奏を最後まで聴くと、謎が解けるという仕掛けがサプライズな「お楽しみ」でしょう。
 そして実際に演奏がスタートすれば、そこはアップテンポの灼熱地獄! ジャッキー・マクリーンが直線的なフレーズを連発してブッ飛ばせば、レイ・ドレイパーは完全に乗り遅れの鈍行列車ですが、溌剌としたリズム隊が一瞬も現場の緊張感をダレさせませんから、続くウェブスター・ヤングも油断が出来ません。
 あぁ、それにしても、このリズム隊は実にハードバップしていますね。ピアニストのギル・コギンスにしても、マイルス・デイビスのセッションにちょっと顔を出したくらいの知名度しかありませんが、そのハードなビバップ魂は本物でしょうねぇ~♪ 短いながらもセッションを通しての各演奏では、キラリと光るアドリブを聞かせてくれますし、この曲にしてもツボを抑えてツッコミ鋭い伴奏が流石だと思います。

ということで、これは聴かず嫌いが損をするという典型的な1枚じゃないでしょうか?

粉砂糖をたっぷりと塗したドーナツと山盛りのアイスクリーム、そして毒々しい葡萄が静物画の如きジャケットは、アルバムタイトルどおりに肥満とメタボな体質への保証書という、実に悪い冗談のようでもあり、しかし演奏内容には確かに甘い感傷のようなものがあります。そして特徴的なチューバの響きが太り過ぎで動きの悪くなったところを象徴しているとしたら、これはこれで大正解!

甘くても虫歯になる心配も無いし、人間って自ら毒を好いてしまう性質があっての名盤だと思います。

コメント
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