OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ロイ・ブキャナンの降臨

2009-04-18 12:15:08 | Rock

メシアが再び / Roy Buchanan (Atlantic / Polydr)

ジェフ・ベックの「哀しみの恋人達」を契機として、1970年代後半は泣きメロのギターインストがちょいとしたブームになりました。

本日ご紹介の「メシアが再び / The Messiah Will Come Again」も、そのひとつとして、当時はラジオや有線で流れまくっていましたですね。

演じているのはロイ・ブキャナンという中年おやじなんですが、この人は1950年代から知る人ぞ知るというギターの名手! 本格的な活動は1957年頃からで、ロカビリー歌手のデイル・ホーキンスのバンドレギュラーとなり、伝説的なヒット曲「Suzie Q」あたりもこの人の演奏と言われていますが、サイケおやじにはちょっと確証がありません。

ちなみにここでの先輩が、やはりアメリカンロックのギタリストとしては基礎を築いたとされるジェームス・バートンで、ロイ・ブキャナンがテレキャスターを使っているのも、この人の影響かもしれません。

で、その後は、やはり同系のロカビリー歌手、例えばロニー・ホーキンスとかフレディー・キャノンのバックを務めながらキャリアを積み重ね、この間にはザ・バンドのロビー・ロバートソンとかセクションのダニー・コーチマーあたりとも親交があったようです。実際、ロビー・ロバートソンはインタビューの中で、自分のスタイルに大きな影響を受けたと明言しているほどです。

しかし本人には欲がなかったのか、あるいは巡業の日々に疲れ果てたのか、何時しかワシントンDCあたりの酒場で演奏する道を選びましたが、ギタリストとしての腕前は同業者の間では伝説となり、業界主導の人気からレコードデビューとなったようです。そして1972年に初めてのアルバム「Roy Buchanan (Polydr)」を発表するのですが……。

こうした経緯は当時の大衆音楽では決して最初からのヒットには縁遠く、サイケおやじにしてもロイ・ブキャナンを知ったのは1974年頃でした。

それは馴染みの楽器屋のギター売り場でのことで、当時は新しい音楽情報源としてラジオやジャズ喫茶の他に、こういう楽器屋がネタの仕入れ元になっていたのです。なにしろそこはプロも出入りしているところですからねぇ、凄いギタリストのひとりとして、これを聴いてみろと鳴っていたのが、ロイ・ブキャナンのアルバムでした。

それは明らかにギターを聞かせるのが目的という演奏で、そのキモはブルース、R&B、カントリーやソウル、そしてジャズやゴスペルがゴッタ煮となった味わいが強く、しかもバンド編成はオルガン入りというところから、私には我が国の井上バンドを強く連想させられました。

実際、ギターとオルガンをメインに作り出されている演奏は、例えば「太陽にほえろ」とか「傷だらけの天使」といった当時の人気ドラマのサントラ音源の元ネタがバレバレでしたし、その演奏は前述の井上バンドがやっていたのですから!

ちなみに井上バンドは元スパイダースの井上堯之(g) と大野克夫(key) が中心のバンドで、ベースが今では俳優として活躍する元タイガースの岸部一徳! メインの仕事は沢田研二のバックの他に当時のテレビドラマ等の劇伴や歌謡曲のカラオケ作りといったスタジオの仕事、さらに作曲やアレンジまでも手掛ける腕利き揃いでした。

閑話休題。

しかしサイケおやじが一番驚いたのは、ロイ・ブキャナンが弾くギターのフレーズやアドリブ構成のテクニックが、全くどうやって弾かれているのか分からなかったことです。もちろん各種のエフェクター類も使っているのでしょうが、それよりも確実に存在しているのが、ギターに対するピッキングや指運の研ぎ澄まされた技術だと、強く直感するばかり……。

今日ではそうした技法がビッキングハーモニクスとかミュート、フィードバック等々、いろいろと解明・解説されていますが、とにかく使用楽器がテレキャスターという以外にはミステリアスな部分が、なかなか魅力の根源だったように思います。

そして、そうこうしているうちに世に出たのがジェフ・ペックの「哀しみの恋人達」で、これはロイ・ブキャナンに捧げることが、はっきりとしたウリになっていたのですから、たまりません。もちろんリアルタイムでは、そのヒットに比例してロイ・ブキャナンの名前も広まったのです。

すると流石は業界というか、翌1976年になって出されたのが、この「メシアが再び」というわけですが、この曲そのものは前述した初リーダーアルバムにも収録されていた隠れ名曲でした。それをここではセルフカバーの再録バージョンとして、オリジナルでは6分近くあった演奏を4分ちょっとに凝縮したのですから、これはウケて当たり前♪♪~♪

厳かなオルガンと思わせぶりなギターが作る導入部からシブイ語りがあって、いよいよ泣きまくるロイ・ブキャナンのギターソロ! せつなくも琴線にふれるメロディと時にはエキセントリックな叫びも感じさせる音色の妙!

テクニック的にも素人が真似する領域ではなく、もちろんプロも完全脱帽だったいう凄い完成度だと思います。

こうして「哀しみの恋人たち」への見事な返答を果たしたロイ・ブキャナンですが、もうひとつサービス精神と商売熱心が融合した証として、なんとこのシングル盤のB面に収められているのが「My Friend Jeff」という曲なんですから、いやはやなんとも!

その演奏はファンクでロックなクロスオーバー! 参加メンバーもフュージョン系の人選になっていますが、ロイ・ブキャナンのギターは驚くほどに保守的なフレーズとノリに拘っているあたりが温故知新の素晴らしさだと思います。

ということで、ロイ・ブキャナンはこれで決定的な人気ギタリストとなり、来日公演も行っていますが、以降は何故かフェードアウト気味……。そして1988年の夏、泥酔したあげくに保護された留置場で首を吊ったという悲劇の死が!?

その真相は明らかではない部分もあるようですが、残された演奏の数々はギターファン御用達の名演となって愛聴され続けています。

そして泣きメロのギターインストは、この曲によって、さらなるブームになるのでした。

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2 コメント

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Unknown (Marie)
2009-04-19 12:04:19
こんにちはサイケおやじ様。早速YouTubeで聴きました。泣きというか、確かに中盤叫んでいますね。こんな風にギターを聞き慣れていないので、とても新鮮でハマッてしまいます。
最期が獄中で…とは、ドラマチック過ぎる人生だなぁと思います。
才能に恵まれ、脚光を浴びるというのは、人によっては孤独な事なのかもしれませんね。
岸部一徳のお話、興味深かったです。実は才能あるミュージシャンだったのですね。探して聴いてみます。
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才能 (サイケおやじ)
2009-04-20 11:27:12
☆Marie様
コメント感謝です。

ギターの楽しみのジャンルとして「早弾き」と並んで魅力的なのが、所謂「泣きのギター」です。
まだ、いろんなネタがありますから、これからも続けますね。
よろしくお願い致します。

ミュージシャンに限らず、人は皆、自分の才能に気がつかない部分がありますし、また実現不可能ならば、才能なんて、無いほうが気が利いているとまで書いた作家もいますよ。

あと岸部一徳はグループサウンズ時代、サリーというニックネームで親しまれました。それが今では名優ですからねぇ~。隠されていた才能が、ここまで開花したことは喜ばしいです。

ちなみに岸部一徳のご子息も、バンド活動でプロになっているそうですよ。
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