■Rokoko-Jazz / Eugen Cicero (MPS)
クラシックの名曲をジャズ化する試みは古来、いろいろとありますが、その中の最高峰といえばルーマニア人のピアニスト、オイゲン・キケロの諸作だと思います。
当然ながらクラシックの素養を強く感じさせるピアノテクニックに加え、強靭なスイング感も兼ね備えたそのスタイルは、失礼ながら同様の演奏をやっているジャック・ルーシェとは一線を隔するものと思います。
さて、このアルバムはオイゲン・キケロがブレイクする契機となった1枚で、録音は1965年3月14日、メンバーはオイゲン・キケロ(p)、ペーター・ウィッティ(b)、チャーリー・アントリーニ(ds) という正統派ピアノトリオ♪♪~♪
ちなみにアルバムタイトルにある「Rokoko」とは、我が国で言う「ロココ」であり、18世紀フランスの宮廷美術をルーツとする芸術様式を指すと思われますが、その優雅なムードとモダンジャズの魅力が実に上手く融合した演奏は、まさにタイトルに偽り無し! 演目も一度は耳にしたお馴染みのメロディばかりです。
A-1 Solfeggio C-Moll / ソルフェジオ・ハ短調
ヨハン・セバスチャン・バッハの息子だったカルル・バッハが書いたピアノ練習曲として有名なメロディが、アップテンポのモダンジャズに変奏されるのもムベなるかな!
そのテーマ部分の一糸乱れぬアンサンブルを聴いているだけで、このピアノトリオの完成度に圧倒されますが、もちろんオイゲン・キケロのピアノはアドリブも実に達者です。流れるようなフレーズ展開には、当たり前のようにクラシックの要素とジャズのドライブ感が絶妙にミックスされているんですねぇ~♪
相当に考え抜かれて、しかも煮詰められた、言わば「存在のアドリブ」なのかもしれませんが、その爽やかさは気持ち良いかぎりですし、本当に心が洗われるというか、こういうピュアハートも「あり」でしょうね♪♪~♪
A-2 Sonata C-Dur / スカルラッティのソナタ・ハ長調
これも有名なメロディで、本来はハープシコードで演じられることも多い名曲ですが、ここではピアノトリオの、それもジャズならでは即興をイヤミなく入れた快演になっています。
穏やかなスタートから、やがて白熱のアップテンポとなる頃には、オイゲン・キケロのピアノがスイングしまくった桃源郷♪♪~♪ どっかで聞いたことがあるような、琴線に触れるアドリブフレーズの連発には溜飲が下がりますし、原曲メロディを大切にしたフェイク、ピアノトリオしてのアレンジの完成度も素晴らしいですねぇ~♪
A-3 L'adolescente / 小さな一生
フランソワ・クープランが書いたロココ様式を代表する素敵なメロディ♪♪~♪ きっと誰もが、一度は耳にした名曲だと思いますが、それを爽やかにフェイクしていくオイゲン・キケロのセンスの素晴らしさ! 全くイヤミの無いところが逆にイヤミになるような感さえあるほどです。
そしてアドリブパートでの流麗なアップテンポの展開は、溢れる泉の如き新鮮なフレーズの連続ですが、後半からはグッとテンポを落とし、グルーヴィなハードバップがど真ん中! あまりにもジャズ者のツボを上手く刺激しますから、憎さ百倍としか言えません。
こういうところが好き嫌いに繋がるんでしょうねぇ~。しかしこれは素敵ですよ、実際! 私は素直に快感を覚えて、大好きです♪♪~♪
B-1 Bach's Softly Sunrise
これはオイゲン・キケロのオリジナル曲ですが、タイトルどおり、導入部にはバッハのトッカータ・ニ短調が使われ、さらに主題にはベンチャーズでお馴染みの某ヒットメロディが入っていたりと、なかなかのサービス精神が嬉しいところ♪♪~♪
そして全体は強靭なドライヴ感に満ちたモダンジャズピアノの楽しさが横溢した快演なんですから、たまりません。あぁ、このスイングしまくって、さらにファンキーな味付けも嬉しいフレーズ展開♪♪~♪ しかも適度なコードアウトまでも演じたりする稚気がニクイですねぇ~♪
ピアノテクニックも凄いの一言で、このあたりはアンドレ・プレヴィンにも共通するところではありますが、オイゲン・キケロには悪魔の音楽としてのジャズというグルーヴが、これでもかとテンコ盛り!
終盤のバロック系ブロックコードとでも申しましょうか、そのクライマックスの上手すぎる展開には、思わず興奮させられますよっ! 全く最高です。
B-2 Fantasie In D-Moll / 幻想曲・ニ短調
これまた有名なモーツァルトの名曲ですから、オイゲン・キケロにしても油断は禁物! そこで神妙にオリジナルメロディをフェイクしていく手際の良さには、幾分のイヤミも感じられるほどです。
ただし、こういう繊細な演奏が他のピアニストに出来るかといえば、けっしてそうではないでしょう。原曲にある4つのパートを上手くジャズ化し、抜群のテクニックで爽やかに、そしてグルーヴィに、さらに楽しく演じていくピアノトリオの醍醐味が満喫出来ると思います。
実に楽しいですよっ♪♪~♪
B-3 Erbarme Dich, Mein Gott / 神よ、あわれみたまえ
これも有名すぎるバッハの大名曲ゆえに、こちらもあらぬ期待をしてしまうのですが、オイゲン・キケロは凝りすぎることなく、極めて自然体にテーマメロディを弾きながら、ジャズ的な味わいを大切に演じています。
その幻想的な味わいの深さ、そしてせつないメロディ展開を上手く構成していく全体の流れの潔さは、本当に圧巻だと思いますねぇ~♪ 時代的にも絶妙に入っている新主流派っぽい響きも要注意かもしれませんし、また逆にオスカー・ビーターソン流儀のダイナミックな表現、大袈裟にしてクサイ芝居も結果オーライという、まさにアルバムの締め括りにはジャストミートの名演です。
ということで、これは絶大なる人気盤でしょう。
オイゲン・キケロの抜群のテクニックを満喫出来るピアノの爽快感、そしてペースとドラムスの地味ながら上手いサポートが一体となっていますから、とっつき易く、何時聴いてもシビレます。おそらくクラシックのジャズ化作品としては、最も成功した中のひとつじゃないでしょうか?
ちなみにオイゲン・キケロは、これが出世作と言われているとおり、以降に膨大な録音を残していきますが、その中には当然ながらクラシック以外の演目もありますから要注意でしょうねぇ。私は以前、ドイツでライブを聴きましたが、その時はバート・バカラックの名曲等々も、実に上手くクラシック調のジャズにしていましたし、それがぴったりの演奏スタイルは大きな魅力だと思います。
ところで昨夜は仕事関係の宴会に出て、資本家や政治屋のギラギラした欲望の中に紛れ込んでいたわけですが、私にしてもお金は大好きですが、奴らの話はそんな私にしてもムカムカするほど生臭く、辟易させられました。
そこで今朝は爽やかな気分を求めて、このアルバムを出してしまったわけですが、それにしても久々にオイゲン・キケロの中毒に陥りそうで、我ながら苦笑しています。