■Air Mail Special / Lionel Hampton And His All-Stars (Clef / Verve)
何かと暗い話題が多すぎる昨今、実はサイケおやじも様々な局面で煮詰まりを感じています。
しかし、そんな時こそ気分転換にはハッピーな音楽がジャストミート!
そこで本日は、ジャケットからして陽気なアルバムを取り出しました。
ご存じ、ジャズやR&Bの大御所としてエンタメの真髄を極めたライオネル・ハンプトンが名プロデューサーのノーマン・グランツ傘下で奮闘したオールスタアセッションから作られた、実に楽しい傑作盤です。
録音は1953年9月&1954年4月、メンバーはライオネル・ハンプトン(vib)、オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、バディ・リッチ(ds)、そしてバディ・デフランコ(cl) という偽り無しの凄腕揃い♪♪~♪
A-1 Air Mail Special (1953年9月2日録音 / Quartet)
レイ・ブラウンのベースソロがイントロになってスタートする、これぞっ、タイトルどおりに爽快なフライングが楽しめるアップテンポの名演です。
とにかくツッコミの激しいライオネル・ハンプトンのヴァイブラフォンは、ミルト・ジャクソンに比べると相当に金属的な音色なので、時には耳を突き刺す場面も感じられるんですが、しかしこれだけホットなアドリブをやってくれれば結果オーライでしょうねぇ~♪
もちろん続くオスカー・ピーターソンも十八番の猛烈ドライヴを最初っから全開させ、それがまたライオネル・ハンプトンの闘志を燃え立たせるという丁々発止が、たまりません。
ですから、クライマックスで炸裂するバディ・リッチの強烈なドラムソロは、なんとブラシでありながら、そのバスドラとのコンビネーションによって、白熱のビートとリズムが大洪水! これでエキサイトしなかったら、ジャズを楽しむ喜びが失われるといって過言ではないでしょう。
A-2 Soft Winds (1953年9月2日録音 / Quartet)
ライオネル・ハンプトン所縁のベニー・グッドマンが十八番としていたブルースリフとあって、参加メンバーのリラックスしたムードの醸し出し方が良い感じ♪♪~♪
しかしアドリブパートの本気度は実に高く、猛烈な指使いとグルーヴィーなノリを完璧に融合させるオスカー・ピーターソンから楽しさ優先モードに拘り抜くライオネル・ハンプトンという、まさに名人芸の連続には浮世の憂さも晴れるところです。
B-1 It's Only A Paper Moon (1954年4月13日録音 / Quartet)
さて、ここからのB面は、いよいよお待ちかねのバディ・でフランコが加わった強烈無比なガチンコセッションですから、お題となった小粋な歌物曲が激しいアップテンポで演じられるのは、これまたひとつのお約束!
中でも特筆されるのはレイ・ブラウンとバディ・リッチによる柔軟にして剛直なリズムコンビの存在で、そこから発生するジャズビート本来の輝きは圧巻の一言でしょう。
ですからバディ・デフランコの遠慮会釈の無いビバップクラリネットがエキセントリックに突進し、同じくオスカー・ピーターソンがスピード違反を演じてさえも、終始全体のモダンジャズグルーヴは決して揺るがず、それどころか逆に新しいスタイルを模索している感さえあります。
ちなみに、ここでは何故かリーダーのライオネル・ハンプトンが参加していないのも、そういう観点からすれば納得出来るのかもしれませんが、サイケおやじの本音としては、やはり御大にも貫録と意気込みを披露して欲しかったところ……。
ただし、これもまた余人の口出し等、絶対に許されない境地の名演であることに違いは無く、何度聴いても圧倒されるばかりです。
B-2 The Way You Look Tonight (1954年4月13日録音 / Quintet)
そしてオーラスも、これまたアップテンポで演じられるのが当然の人気スタンダード曲ですから、まさにこのメンツにはジャストミートという思い込みを逆手に活かした、実にハートウォームなスタートがニクイばかり!
ミディアムテンポで演じられる、その穏やかなフィーリングは、当然ながら歌心に溢れたライオネル・ハンプトンのヴァイブラフォンが決定的なメロディフェイクとアドリブによってリードされますから、続くオスカー・ピーターソンも油断が出来ません。
しかし、流石はと言うべきでしょうか、じっくり構えたアドリブ構成はもちろんの事、伴奏でのグルーヴィな雰囲気の出し方も本当に上手いですねぇ~~♪
そしてバディ・デフランコが、これまた素晴らしく、クラリネットならではの音色と所謂パーカーフレーズのミスマッチ(?)がジャズ表街道のど真ん中! これが出来るモダンなプレイヤーは案外と少ないように思いますが、如何なもんでしょう。
さらに演奏は終盤において、アドリブの集団即興演奏の如き展開に進みますが、あくまでも和み優先の姿勢は、当たり前のように凄いの一言です。
ということで、巨匠が勢ぞろいの豪華セッションですから、その充実度は保証付ながら、何よりも絶対に手抜きしない各々のジャズ魂は流石です。
まあ、そのあたりは生涯に膨大なレコーディングを残している面々ですから、ある意味では手癖とか、マンネリという評価もあることは事実です。しかし、これだけ安定してスリル満点の演奏が出来るミュージシャンが、他にどれだけ居るか? それを考えてみれば、答えは自ずと提示されるはずですし、まずは虚心坦懐に聴くということから始め、そしてあれこれ考察するうちに、自然と演奏にグッと惹きつけられるのがジャズ者の習性じゃないかと思いますねぇ。
尤も、そうした屁理屈を捏ね繰り回しているサイケおやじが、既に術中に落ちているというか、つまり理屈よりは心に訴えかけてくる演奏が、ここにあります。
ちなみに御承知のとおり、クレフ~ヴァーヴ期のライオネル・ハンプトンは夥しいレコーディングから作られたレコードが大量にあり、しかも度重なる再発ではLPそのものの仕様が異なるブツが様々に出回っています。
それはこのアルバムにしても例外ではなく、掲載したジャケットでのLPは何度目かの再発という事情が恨めしいところ……。
実は、どの盤がオリジナルなのか今もって分かっていないのがサイケおやじの現状であり、とりあえず楽しく聴けば、それで良し! そういう居直りの気分も否定出来ません。
もちろん現在では、この時期のライオネル・ハンプトンとオスカー・ピーターソンの顔合わせに限ったコンプリートなCDセットも出ていますから、案外とそれを聴くのが正解かもしれません。
しかし、このジャケットにして、この中身というヴァーヴのアナログ盤特有の面白みも捨て難く、それがジャズ愛というものならば、苦しくも幸せな気分になるのでした。