OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

こんな粗雑なロックジャズもクリムゾン

2011-05-14 16:47:26 | Rock Jazz

Earthbound / King Crimson (Island)

キング・クリムゾン初のライプアルバムであり、音の悪い公式盤としては歴史に残る1枚でしょうが、サイケおやじは愛聴して止みません。

しかし当然ながら初体験時の完全なる肩すかし! あるいは痛切な失望感と裏切られた気分は今でも忘れられません。

と言うのも、キング・クリムゾンに対する当時の一般的な認識は、繊細な美しさと暴虐的なエネルギーを併せ持った唯一無二のグループであり、それは不滅の名盤「宮殿」以来の神聖でしたから、アルバム毎に変遷するバンドメンバーの顔ぶれが如何になろうとも、全ては許容出来るプログレの様式に収まっていましたし、来日公演の噂も、噂の段階で終わっていた当時であればこそ、ライプ盤が渇望されたのですが……。

 A-1 21st Century Schizoid Man
 A-2 Peoria
 A-3 The Sailors Tale
 B-1 Earthbound
 B-2 Groon

上記の収録演目は全て、1972年2~3月に敢行されたアメリカ巡業からの音源ですが、既に述べたように劣悪なクオリティの真相は、ミキサー卓に直結したカセットレコーダーを使用したがゆえの事です。

しかも当時はロバート・フリップ(g)、メル・コリンズ(sax,key)、ボズ・バレル(b,vo)、イアン・ウォーレス(ds,per) という4人組がキング・クリムゾンを名乗っていた時期で、つまりオリジナルメンバーはロバート・フリップ唯ひとり! さらにグループのコンセプトを大きな比率で担っていた作詞家のピート・シンフィールドも去っていたと言われていますから、必然的に演奏は現場主義になっていたのでしょうか……?

結論から言えば、全篇が歪みまくった、ヤケッパチのロックジャズ!

ですからキング・クリムゾンに対する先入観念としての荘厳な様式美を期待すれば、外れて当然だったのです。

ちなみに、このアルバムは本国イギリスでは1972年の初夏に廉価盤として世に出ながら、その劣悪な音質の所為でしょうか、我国では発売されず、それはキング・クリムゾンの人気がリアルタイムで最も高かったアメリカでも同様でしたから、日本の熱心なファンは必然的に当時は殊更に高かった英国盤を買うしかなく、それなのに前述の如き音の悪さと演奏そのものの粗雑な暴虐があったのですから、全く無慈悲な仕打ちというのが正直なところでしょう。

ですから翌年あたりからは中古盤市場にも頻繁に出回る状況中で、サイケおやじもどうにか入手は叶ったのですが、それでも冒頭に述べた不条理な気持は否定出来るものではありません。

しかし、だからと言って、ここに収録されている演奏が嫌いな種類かと問われれば、かなり好きなんですねぇ~~♪

まず初っ端の「21st Century Schizoid Man」からして、オリジナルバージョンで象徴的だった歪みまくりのボーカルが、ここでは意図的に作られた部分に加えてナチュナルな響きが既に歪んでいますから、それが素晴らしく良い方向に作用していると思います。

加えて暴虐的なアドリブ合戦から、例の目眩がしそうな最終パートのバンドアンサンブルも、まさにライプならではの緊張感を孕んでスリル満点! 誰かがどっかでミスるんじゃないか!? 心底、そう思わされる目論見が完全に成功していると思います。

団子状の音質が逆にド迫力を生み出している結果も、実はロバート・フリップの深淵な企みかもしれません。

ですから、続く「Peoria」が重い8ビートで起承転結も無く演じられるロックジャズなインストであったとしても、また前作アルバム「アイランズ」に収録されていた「The Sailors Tale」が、これまた中途半端なジャム系演奏と感じられても、それはそれで相当に熱いエネルギーが圧倒的!

その要因は、リーダー格のロバート・フリップが置き去りにされたかのような黒人音楽系のグルーヴとジャズっぽいアドリブ中心主義だと思いますし、その中でメル・コリンズのサックスがフリーな音色とモードジャズの語法を多用すれば、ドカドカ煩いイアン・ウォーレスのドラムスはハードロックとモダンジャズのゴッタ煮であり、ボズ・バレルの意味不明なシャウトやアドリブスキャットにはR&B風味も濃厚という、なかなか闇鍋的な楽しさが満喫出来ますよ♪♪~♪

そしてB面では、それらがますます煮詰められ、ほとんど怖いモダンジャスになってしまう「Earthbound」からフリージャズと現代音楽が激しく対峙したような「Groon」と続く流れにグッタリと心地良い疲労さえ覚えるんじゃないでしょうか。

また何れのトラックも、中途半端なフェードアウトや強引な繋ぎがミエミエの編集を施されているあたりが実に意味深で、現実的に廉価盤だったとしても、ちょい聞きにはブートよりも悪質商売の如きアルバムを作ってしまったロバート・フリップの意図を、少しは擁護出来ると思わせるのが、真の狙いなんでしょうか……。

ご存じのとおり、この後のキング・クリムゾンは、またしてもロバート・フリップ以外のメンバーが入れ替わり、新展開を模索していくのですが、こういうロックジャズがど真ん中の演奏スタイルが洗練へと向かう結果を知っているだけに、このアルバムが妙に愛おしく感じられます。

特に「21st Century Schizoid Man」は、これまでに幾つものバージョンやテイクが残されていますが、個人的には途中での誰かの感極まった叫び声も含めて、このアルバムでの演奏が一番好き♪♪~♪

ということで、決して万人向けではありませんし、プログレ王道の様式美からも無縁の仕上がりですが、ロックジャズが大好きな皆様であれば、納得の1枚だと思います。

そして音の悪さが、だからこそ、良い!

残念ながらリマスターのCDは聴いたことが無いんですが、本当にそう思える数少ないレコードと確信しているのでした。

コメント (2)
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