OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

たった1曲で変節させられたシカゴのアルバム

2011-05-30 16:47:00 | Rock

Chicago Ⅵ (Columbia)

生まれついて(?)の保守的な性格から、サイケおやじは「変化」への対応能力に優れていません。

それはあらゆるものに対し、これまで数え切れないほどの戸惑いを覚えてきたことを思えば、好きな音楽鑑賞についても同様です。

例えば本日ご紹介のLPはブラスロックの王者に君臨していたシカゴが、その全盛期たる1973年夏に出したものですが、個人的にはあまりにも変貌していた内容に茫然とさせられた1枚!?!……??

というのも、シカゴといえば政治的なメッセージも含んだ熱い歌の世界を演出するロック優先主義のブラスと硬派なギターソロ、若々しい「パワー」と「力み」が混然一体となった突貫バンドのイメージでしたから、些か内向きなスタイルを表出させたこの作品には、物足りないものを感じて当然だったのかもしれません。

 A-1 Critics' Choice / お気に召すまま
 A-2 Just You 'n' Me / 君とふたりで
 A-3 Darlin' Dear / 愛しいお前
 A-4 Jenny
 A-5 What's This World Comin' To / 輝ける未来
 B-1 Something In This City Changes People / 誰かが僕を
 B-2 Hollywood
 B-3 In Terms Of Two / 明日への願い
 B-4 Rediscovery / 自由への扉
 B-5 Feelin' Stronger Every Day / 愛のきずな

まず冒頭、ジンワリと歌い出される「お気に召すまま」が、なんとっ! ピアノの弾き語り!?!?

これが、シカゴかっ!?

実は告白すると、サイケおやじは決してこのアルバムを最初から買って聴いたのではなく、国営FM放送で新作LPを丸ごと流すという豪気な番組をエアチェックしての鑑賞でしたから、何かの間違い?? と疑念を抱いたのも当然の仕儀とご理解願いたいわけですが、それにしても……。

ただし曲調はポール・マッカートニーとブライアン・ウィルソンという両巨匠の影響下にあるメロディラインが魅力的でしたし、「ブラスロックの王者」という冠の拘らず、所謂シンガーソングライター的な楽しみ方で聴けば、これはこれで素敵な歌だと思います。

う~ん、でもねぇ~~~。

と煮え切らない気分をさらに導くのが、シングル曲としてもヒットした「君とふたりで」の穏やかなポップさで、中盤では十八番の節を使ったブラスアンサンブルも出るんですが、なんとなく脱力したようなノンビリムードは、これ如何に……!?

ところが重厚なブラスをバックに脂っこいスライドギターが終始鳴り響く「愛しいお前」が始まると、あらっ、不思議! 急速にロックへ傾斜し、尚且つファンキーな歌と演奏は、既にサイケおやじがお気に入りだったリトル・フィートのセカンドアルバムと共通する新感覚のスワンプ風味が最高♪♪~♪

そして個人的にも大好きな歌になった「Jenny」は、テリー・キャスのエレキギターによるシンプルな弾き語り調でありながら、その甘いメロディとソウルフィーリングがカーティス・メイフィールドのようでもあり、新しい流行になっていたフィリーソウルの味わいも強いという大名曲♪♪~♪ 意識過剰にドライヴするベースや恣意的にバタバタしたと思われるドラムスの存在も、これで正解だと思いますが、もう、このトラックを聴けただけで、このアルバムのありがたさが身に染みるほど!

ですから、前作の路線を引き継いだファンキーなブラスロックの決定版「輝ける未来」に熱くさせられるのも、当然の流れでしょう。

ちなみに当時のシカゴは、ロバート・ラム(p,key,vo)、テリー・キャス(g,vo)、ピーター・セテラ(b,vo)、ダニー・セラフィン(ds)、リー・ロックネイン(tp)、ジェームズ・パンコウ(tb)、ウォルター・バラゼイダー(sax,fl) というデビュー時からの7人組でしたが、セッションには数名のゲストも参加しており、中でもセルジオ・メンデスのグループで活躍していたラウジール・ヂ・オリヴィエラ(per) は以降、準メンバーとしてライプにも同行するほど馴染んだ働きをしています。

それは当然ながら絶妙のラテングルーヴであり、まだまだこのアルバムでは本領発揮とまでは言えませんが、それでも隠し味的な役割はきっちり演じていると思います。

そこでB面を勇躍して聴けば、LP片面の構成はA面の流れに準拠していて、まず「誰かが僕を」では穏やかなシンガーソングライター的な世界が提示され、続く「Hollywood」がフュージョン風味も強いブラスロックのAOR的展開というのは、なかなか時代の流行に敏感だと今にして思うばかりですが、リアルタイムでは純粋に新鮮だったことは言うまでもありません。もちろん、そこには前述したとおり、ラウジール・ヂ・オリヴィエラのパーカッションが素敵なスパイスになっていますから、ほとんどマンネリ的な良さがたまらないブラスアレンジやワウワウギターも良い感じ♪♪~♪

しかし次の「明日への願い」は、ちょいと変わったイントロの展開が???とはいえ、曲メロとアレンジは爽やかなカントリーロックでもあり、また不思議なリゾート感覚が懐かしいような心地良さなんですねぇ~♪

ここまでのB面も流れでは正直、特に優れた楽曲があるとは思えませんが、グループとしての底力というか、まさに全盛期のバンドだけが表現出来る魔法のようなものがあるんじゃないでしょうか。

その意味で「自由への扉」のジャジーでファンキーな曲展開は、脱力したムードと倦怠増幅のアレンジが逆に快感という素晴らしさで、気抜けのビールのようなワウワウギターの匠の技は凄いっ! 実はコピーしようと奮闘し、結果として挫折した過去を告白しなければならないほどです。

そしてオーラスが、これまたシングルヒットした超ポップ曲の「愛のきずな」ですから、たまりません。率直に言えば、当時も今も、こんなんシカゴじゃねぇ~~! と決めつける頑固なファンの激怒(?)が、サイケおやじも含めて大勢を占めるでしょう。

しかし後の軟弱AOR路線に埋没していくシカゴからすれば、これもひとつの通過儀礼かもしれませんし、まだまだガッツは健在という証明でもあります。

そうした印象は、もちろんアルバム全篇に強く表れていて、特にニューソウルや未だクロスオーバーと呼ばれていたフュージョン、あるいはシティミュージックの類に踏み込んだ、まさに時代の先端を演じたシカゴの決意表明!?

ですから、それを肯定するか否かで、以降のシカゴを積極的に聴き続ける姿勢を明確に求められたのが、デビュー当時からのファンの心境だったと思います。

冒頭述べたように、サイケおやじは保守的な感性が強いところから、このアルバムに対しての本音を吐露すれば、最初は全くの肩すかしをくらった気分でした。

それが「Jenny」のたった1曲によって、今では座右の愛聴盤になっているのですから、我ながらの変節ぶりが恥ずかしいほど……。

そういう部分において、テリー・キャスの歌とギターの素晴らしさは、神業的なワウワウの使い方やジャズっぽい伴奏コードの選び方と無縁ではありませんし、例によって唯我独尊的に蠢くピーター・セテラのペースやロバート・ラムの旨みある曲作り等々、従来路線を踏まえたうえでの新展開は、素直に認めざるをえません。

もちろん、最初はエアチェックのテープを楽しんでいたサイケおやじが、輸入盤のバーゲンセールでほどなくLPレコードをゲットしたのも自然の成り行きでした。

そして以降、まだまだしばらくはシカゴを聴いていけたのも、このアルバムの中でも、特に「Jenny」のおかげというわけです。

コメント (2)
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