ネットで頼んでいたブツがドカッと入荷♪ 昼飯もそこそこにルンルンしながら開封していたら、全く身に覚えの無いものが……!
宛名を見たら、誤配でした。
でも、そのブツが問題なんですよ。夫婦生活に使うと思われるような物品とか下着類、精力剤……等々が!
まあ、よく確かめもせずに開封した私のミスなんですが、相手に謝るにしても、お互いに顔が悪いというか、なにせ本当の受取人はカタイ人という評判ですからねぇ……。
いやはや、困ったと思いつつ、猫耳のバカ秘書に口止めをして宅急便屋に電話した私ではありますが、まずは本日の1枚として、これを――
■Filles De Kilimanjaro / Miles Davis (Columbia)
ジャズの帝王と呼ばれたマイルス・デイビスの諸作中、最も聴かれていないアルバムが、本日の1枚じゃないでしょうか? まあ、「オン・ザ・コーナー」という怪盤もありますが、そっちはラップの元祖扱いでの人気もありますから。
で、この邦題「キリマンジャロの娘」というアルバムは、マイルス・デイビスが1960年代に黄金のクインテット=ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスと共に極限まで追求した王道ジャズを、さらに進化させようと悪戦苦闘した記録から作られたものだと思われます。
それは結論から言うと、この後に発表される名盤「イン・ナ・サイレントウェイ」や「ビッチズ・ビリュー」という歴史になった作品を鑑みて、この「キリマンジャロの娘」は別に出なくても何ら問題無いとさえ、私には思えるのです。
まあ、最初からあまりにも極論で額に汗が滲むわけですが、しかし実際、このアルバムの魅力はリーダーが煮え切らないところでは?
録音は1968年6月と9月、メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p,key)、ロン・カーター(b,el-b)、トニー・ウィリアムス(ds) に加えて、チック・コリア(p,key)とディブ・ホランド(b,el-b) が新たに参加し、入り乱れたセッションになっています――
A-1 Frelon Brun / Brown Hornet (1968年9月24日録音)
チック・コリアとディブ・ホランドという新作組が参加した演奏で、そこにトニー・ウィリアムスが入ったリズム隊によるドドスコ・ビートのイントロから、ジャズでもロックでも、ましてやジャズロックでもないリズムに煽られて、ネクラの作り笑いのようなテーマが提示されます。
アドリブの先発はもちろんマイルス・デイビスで、どこか苦しそうに十八番のフレーズばかりを吹いていきますが、チック・コリアの不気味な伴奏が印象的です。
しかしウェイン・ショーターにとっては、こういう雰囲気は得意中の得意ということで、後のウェザー・リポートのようなフレーズまで繰り出しています。
そしてチック・コリア! フリーとロックの狭間に存在するブラックホールを捜し求めるような味が、完全に……???
全体に試行錯誤から抜け出せない迷い道だと思いますが、これをアルバム冒頭に据えたプロデュースは流石なんでしょうか……? ただしトニー・ウィリアムスのトラムスは壮絶! 大音量で聴くと印象が変わってしまう魔法が秘められています。
やっぱりド頭で正解か!?
A-2 Tout De Suite (1968年6月20日録音)
ここではハービー・ハンコックがエレキピアノ、ロン・カーターはエレキベースを弾いているようです。つまりバンドが新しい挑戦を始めた記録ですが、演奏そのものは全く今までの王道路線で、テーマはスローテンポで神秘的なものが追求されています。
またアドリブパートでは全員が自在なリズムを使いながら、あくまでもマイルス・デイビスの目論見を看破しようと奮闘しますが、当の本人はそうした緊張感を楽しんでいるかのような快調さです。その鋭さにはトニー・ウィリアムスが一番良い反応を聴かせていることも、特筆すべきだと思います。
そしてウェイン・ショーターが、また物凄いです。トニー・ウィリアムスの激烈なドラムスを物ともしない泰然自若ぶりには、呆れ果てる他はありません。リズム隊も完全にキレています。暗黙の了解を超えた心的交歓♪
そこへいくとハーヒー・ハンコックは保守的というか、それが長所ですねっ♪ ジャズ者は和み、ロック&ソウルファンは驚愕でしょう。あぁ、最後はゴスペル!
さらにトニー・ウィリアムスは、後のライフタイムを彷彿させる爆発ぶり! これではロン・カーターが可哀想というか、終始、細切れ状態なのでした……。
A-3 Petits Machins / Little Stuff (1968年6月19日録音)
マイルス・デイビス作となっていますが、実はギル・エバンスから大きなヒントを貰った演奏で、従来の4ビート路線を継承しつつ、ジャズの王道を突っ走るバンドは最高です。
もちろんハービー・ハンコックはエレキピアノを弾かされていますし、ロン・カーターも純粋4ビートはやってくれませんが、トニー・ウィリアムスのドラムスがどうしても暗黙の了解で、オフビートから抜け出せないようです。
それゆえに烈しい演奏が逆に安らぐというか、ガチガチのジャズファンなればこそ、これは安心できる仕上がりになっています。
ジャズは最高だぁ! と声を大にして宣言出来ますねっ♪
B-1 Filles De Kilimanjaro / Girl Of Kilimajaro (1968年6月21日録音)
このアルバムタイトル曲は不思議な明るさがあり、次作「イン・ナ・サイレントウェイ」への繋がりが感じられます。
なにしろトニー・ウィリアムスのドラムスがモロですし、一応データではハービー・ハンコックがエレキピアノとなっているのですが、私にはチック・コリアのように聞こえてしまうという……。
肝心のマイルス・デイビスは煮えきっていません。尻つぼみというか……。
しかしそれをバネに反撥するのが、ウェイン・ショーターのディープなテナーサックスで、もう完全にウェザーリポートになっていますねっ♪
B-2 Mademoiselle Mabry / Miss Mabry (1968年9月24日録音)
思わせぶりが先行したソウルゴスペルで、どこまでもスローな展開にはイライラさせられますが、反面、時折入るキメのフレーズやショック療法的なビートの嵐が、待ちきれない快感になっています。
こういう展開はマイルス・デイビスが散々やってきたものと、ビート感覚は違っても本質は同じなので、ウェイン・ショーターも安心して自己中心の美メロアドリブを存分に聴かせてくれます♪
さて、問題はリズム隊で、このエレキピアノはデータではチック・コリアとされていますが、本当か? ハービー・ハンコックじゃないのか? 曲調からすればジョー・ザビヌルかキース・ジャレットが最適なんでしょうが!
まあ、それはそれとして、ここでもトニー・ウィリアムスが最高ですねっ♪ もちろん4ビートなんて叩いてくれませんが、激情にまかせたように見せかけた計算づくの一撃が、たまりません!
ということで、これは全曲がマイルス・デイビスのオリジナルという意欲作ですが、肝心のリーダーがオトボケをかましたり、脱力する部分があったりで、いやはやなんともです。
しかしトニー・ウィリアムスとウェイン・ショーターが物凄い出来栄えで、存在感満点なんですねぇ~♪ それゆえにマイルス・デイビス名義で出す必要があったのか? という疑問がつきまとうのです。
まあ、契約問題とかもあったのでしょうが……。
結局、次作の「イン・ナ・サイレントウェイ」があまりにもカッコ良く、出来すぎだったのが、このアルバムの致命傷というか、後追いで聴くと如何にもジャズのドロ臭味が目立ちます。
ただしトニー・ウィリアムスが本当に凄まじく、大音量で聴くとスカッとするのも、また事実♪ いつの日か傑作盤へと衣替えする可能性を秘めているのでした。