暑くなりましたですね……。
常日頃、ジャズは熱気だ! 緊張感だ! とホザイている私だとて、これではかないません……。脱力して全て成すがまま、Let It Be をきめこむ休日があってもいいはず……、ということで本日はこれを――
■Quiet Nights / Miles Davis with Gil Evans (CBS / Sony)
言わずと知れた脱力盤でありながら、凄~~~く、これが好き♪ というファンも多いアルバムだと思います。かく言う私もその1人……。
で、どうしてこんなに極端な賛否があるかというと、まず、それぞれの曲が短く、未完成というか、煮え切らない演奏に聴こえてしまうからでしょう。
それは、どう贔屓目に聴いても否定出来ない部分が、確かにあります。
その内容はマイルス・デイビスを主役に、ギル・エバンスがアレンジした楽曲を臨時編成のメンバーを集めて演奏したものが6曲、冒頭から入っています。そしてオマケ的に最後の1曲だけが、マイルス・デイビス+ピアノ・トリオというワンホーンの演奏になっています。
録音時期も1962年夏~秋、1963年春と分裂しており、どれも短い演奏ばかりなのです――
A-1 Song #2 (1962年11月6日録音)
おっ、グリーンスリーブス? と一瞬思わせて、アッという間の終わる名曲です。如何にもギル・エバンスらしい色彩豊かなアレンジは素敵なんですが、肝心のマイルス・デイビスが腰の据わっていない吹奏で、アドリブはもちろんありません。
しかしリズムは快適なボサノバ、終りはエリック・サティみたいで、案外クセになる魅力があります。
A-2 Once Upon A Summertime (1962年11月6日録音)
お馴染み、ミッシェル・ルグランが書いた名曲をギル・エバンスがアレンジするという、ワクワクさせられる目論見ですが……。
結果は聴いてのお楽しみとしか書けません。お察し願います。
マイルス・デイビスはハスキーな音色で思わせぶりな吹奏に撤しますが、ギル・エバンスのアレンジが強すぎるというか……。
これも3分半ほどの短い演奏です。
A-3 Aos Pes Da Cruz (1962年7月27日録音)
これはっ、良いですね♪ ギル・エバンスの膨らみのあるアレンジが和みのボサノバを作り上げています。もちろん違和感と難解な部分を含んでいる部分は健在で、安易に大衆に迎合しない姿勢がマイルス・デイビスには良かったんでしょう。アドリブはまあまあですが、テーマ吹奏は魅力があります。
個人的には、かなり好きです♪
A-4 Song #1 (1962年8月13日録音)
初っ端からギル・エバンス的ショック療法が炸裂しますので、覚悟が必要です。
と、いきなりネタバレを書いてしまいましたが、そこが演奏の最良点なんです。
それゆえにマイルス・デイビスは思いっきり脱力していますし、演奏しているメンバーも気疲れしている雰囲気がミエミエでは?
しかし中盤から徐々に盛り返していくあたりが、グルーヴィ! なんて、このアルバムでは一番似合わない言葉を使ってしまうほど、グッときます。
B-1 Wait Till You See Her (1962年8月13日録音)
元ネタはスタンダードの隠れ人気曲ですが、ギル・エバンスが大胆にアレンジと改変を加え、マイルス・デイビスの自覚に任せたような展開になっています。
したがって好き嫌いが分かれるでしょう。これで良いのか? マイルス・デイビスは必死の吹奏を聴かせてくれます。
B-2 Corcovado (1962年7月27日録音)
当時のボサノバ・ブームを当て込んだ演奏でしょう、誰でも推察は容易です。
それにしてもこの脱力感は、ボサノバの本質? そんなわけは無いでしょうね。
この人気曲にして、このアレンジとこの吹奏……。妙なところで力んでいるマイルス・デイビスは、多分ヤル気が無かったんじゃないでしょうか……。
煮え切りません……。
B-3 Summer Night (1963年4月17日録音)
この曲だけがマイルス・デイビス(tp)、ビクター・フェルドマン(p)、ロン・カーター(b)、フランク・バトラー(ds) という布陣になっています。そしてこれが、最高なんです♪
まずビクター・フェルドマンのイントロで気分はロンリー、続くマイルス・デイビスが十八番のミュートで演じてくれる一撃必殺のバラードです。
あぁ、これがマイルス・デイビスです♪
これまでの演奏がモヤモヤしていただけに、ここでは身も心も投げ打って、マイルス・デイビスに酔い痴れてしまいます。この1曲を聴くために、いままで我慢してきたと言ってもいいほどです。
そしてビクター・フェルドマンのピアノが、また、絶品です。この人はイギリス人ですが、その所為か否か、不思議な気品とファンキーさが同居したような魅力があって、私は大好きです♪
演奏はこの後、マイルス・デイビスがテーマを変奏して終焉を迎えますが、最後に主人公の濁声があるのは、嬉しいプレゼント♪ 狙った演出だとすれば物凄いことですが、自然体でこれが出来るというのも天才の証明かもしれません。
ということで、これは脱力したり感動したり、ボケたりツッコンだりするバラエティ盤になっていますが、私はこれを暑い夏の夜に聴きながら、うたた寝モードに入るのが最高の幸せになっています♪
ただし世評は、良くありませんね……。まあ、そのあたりは私も充分納得しています。なにしろ残り物の寄せ集めという雰囲気が濃厚ですし、ボサノバ・ブームを当て込んだ会社側の策略に、一応はノッてみせたマイルス・デイビスという評論家の先生方の御意見も、謹聴致しますが……。
これも、俺だけのS級盤なのでした。