山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

大阪市廃止を再び否決、大阪市民の意思(4)

2020年11月16日 18時55分01秒 | Weblog
 こんどの住民投票ほど、世論調査の動きを横目に見ながら運動をしたことはなかった。前回(2015年)はずっと、投票1週間前でさえ反対が賛成を10ポイント上回っていたのに、投票結果は1ポイント弱、1万票の差だった。橋下氏がツイッターで200万ともいわれるフォロワーに連日連夜叱咤激励した効果が最終に結実した。私たちの想像できない運動の世界だった。毎日の街頭では、橋下氏の金切り声で「大阪市はなくなりません、なくなるのは市役所だけです、騙されてはいけません」を叫び続けた。その裏で夜通しツイッターで引き締めをした。彼は手ごたえを感じ、勝ったと思っていた。私たちも勝ったと思っていた。だが思いもよらない僅差だった。それが実態だった。1週間で、一夜で、情勢を逆転させる維新の波及力、突破力に恐怖を覚えた。10ポイントの差が1週間でなくなった現象を理解できなかった。
 2か月ほど前、前回の現象を、実際に追いつめられたというよりも、反対派が高齢者が多く、また通常投票に行かない人が多かったために投票行動につながらなかったためだという解説を読んだ。これは実際ありうるなと納得した。だから、今回、がんばって拮抗、さらに最終的に1ポイント上回ったとしても、足が痛い、体が言うことをきかないという人が相当数いることから数ポイントも上回らないことには勝てないと思っていた。スーパー前で街頭で、「反対や!」と訴えてくる人にたくさんであったが、その人に反対がぎりぎり多数では勝てない、投票に行きたくても行けない人がたくさんいる。その分も上回るくらいに広めないと勝てませんよといいつづけた。だからじょじょに差が縮まってきたが、ぐいっと抜き去らないと勝てないと思っていた。
 世論調査の推移はこうだ。
 2015年5月17日投票の1週間前、賛成33%反対43%、必ず行く層では39%、45%だった。10ポイントの差が、行く層では6ポイントに縮んでいた(朝日新聞)。
 読売新聞では、2018年、賛成36%反対40%。2019年、賛成40%反対47%。2020年4月、賛成43%反対40%だった。今年4月では賛否は接近していた。だがコロナのもとで吉村人気に乗って一気に差が開いた。
 読売9月4~6日調査では、賛成48%反対34%と14ポイントの大差がついた。ABC放送・JX調査でも、9月19・20日、賛成49・1%反対35・3%で13・8ポイントの差がついた。わたしはこの時、結果は知らなかった。早く立ち上がらなければと思いつつ、本格的に地域のなかまとスーパー前で声をあげたのは9月12日(土)だった。大差がひらいた下で声をあげ始めた。
 ABC・JX調査では、10月3・4日賛成45・3%反対40・2%で5ポイント差、2週間で8・2ポイントも差が縮んだ。よろこんだ。このままいけば逆転の可能性もある。この数字を知ればみんなやる気も出るだろう。朝日新聞9月26・27日調査でも、賛成42%反対37%の5ポイント差となった。ただ、今は知るところとなったが、この調査では必ず行く層では賛成51%反対35%という恐ろしい数字がかくれていた。
 ABC・JXでは10月10・11日には賛成45・4%反対42・3%と3・1ポイントまで差を詰めた。ところが、10月17・18日には、賛成47・9%反対40・4%と逆に差が開いた。わたしは、この数字はおかしい、どうなってるんやと思った。すでに市民の反応はするどい変化をしていた。10月4日(日)から反対の意思表明をする人がどんどんでてきた。期日前投票が13日にはじまるとさらに強まった。街の実感とこの数字とのギャップに悩みがつのった。街の実感を信じて突き進むしかないとがんばった。期日前開始とともに市内100の駅頭で夕方日刊ビラの配布宣伝も始まった。
 読売10月23~25日では賛成44%反対41%、朝日10月24・25日では賛成39%反対41%の数字が出た。読売は渋いなあ、朝日には救われたと思った。しかしこれは誤差の範囲だろう。投票1週間前で本当の意味で賛否拮抗にたどり着いた。
 さらなる情勢の激変を実感したのが、10月26日(月)からだった。スーパー前、街頭宣伝で出会う人から、単に反対の意思表明ではなく、それこそ激しい怒りの表明が相次いだ。年老いた女性などは泣きそうな表情で訴えてきた。これまで経験したことのない風景だった。
 この26日は、大阪市財政局が270万人の大阪市を機械的に4分割し67万人の4つの政令市をつくったと仮定した場合の行政コストを計算して毎年218億円増えると発表した。これを毎日新聞夕刊が1面トップで報じた。報道の前から大阪市廃止への怒りは沸点に達していた。これに対して、松井市長は「存在しない架空の数字を提供することは捏造」だと非難した。財政局長を激しく叱責たのだろう。東山潔・財政局長は2度にわたって謝罪会見をさせられた。「誤った考え方に基づき試算した数値が報道され、市民に誤解と混乱を招いた」と釈明した。だが市民は誤解していないしまして混乱していない。正しい判断の材料を提供してくれたことに感謝している。よく捏造だ虚偽だといえたものだ。270万の政令市を4つの政令市に4分割した場合の行政コストを国の基準に従って算出したもので虚偽でも、捏造でもない。大阪市長が現実の数字にもとづいた行政コストを出さないもとで、財政局があえて仮定の計算を示してくれたことが市民にとってどれだけ助かったことか。もともと法定協議会で数カ月前から共産党や自民党から大阪市を4つの特別区に分割するとしたら、行政コストが増えるのか減るのか金額はいくらか出せとしつこく迫ってきたのに、いっさい出さなかったのがもともとの問題だ。松井市長がまともな、普通の市長ならば、財政局が架空の数字で計算したものを出したのに対して、きちんと真正の数字をもとにして責任の持てる数字を出すように命じるのが筋だ。ところが正しいものを出せとは言わずに、避難・叱責をするだけだ。行政に責任を持つ人間とはいえない。最低の詐欺師だ。
 財政局の職員が今、松井市長だけでなく、維新の議員からしつこく攻撃、いじめを受けているらしい。予想されたことだ。でも、あえて攻撃を受ける、冷や飯を食わされることが予想されるにもかかわらず、発表に踏み切った財政局職員は偉い。公務員の鏡だ。国土交通省の赤木俊夫さんは国家公務員は国民に雇われて仕事をしているといった。大阪市の職員は市民の負託にこたえて仕事をしている、このことを実践したのが行政コストの発表だ。もし行政コストが増えるのか、減るのかという、大阪市廃止4分割の一番の基本を市民が知ることなく投票を迎えたならば世紀の悲劇、歴史に残る欺瞞となっただろう。行政サービスが減るという批判のこえが大きくなる下で、松井市長は行政コストを不明にしたまま、投票日までもっていけば勝てると思っていただろう。市民がこれをしらないまま投票したらそれこそ間違った判断をした人がたくさん出ただろう。投票の6日前に、財政局職員の決断によって、大阪の民主主義はかろうじて救われた。ほんとうにありがたい。でも期日前投票をした人の多くはこれを知らないまま投票した。
 世論調査は最終土日で終わりかと思っていたら、なんと10月30・31日にも行われていた。ABC・JXで賛成45%反対46・6%と初めて反対が1・6ポイント上回った。9月19・20日比で反対が11・3ポイントも伸びたのだ。くわえて必ず行く層では、大いに賛成が32・4%強く反対36・7%と4ポイントも差がついた。
 最後の1週間、投票の直前まで情勢の激変がつづいていたのだ。5年前とは逆の方向で。じっさいの有効投票では、反対が賛成を1・26%上回った。世論調査とほぼ同じだ。体が不自由な人、病気の人もたくさんいただろう。でもその人たちも、130年の歴史をもつ大阪市を自分たちの代で亡くしてはいけないという強い思いが行動に駆り立てたのだろう。
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