山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

マツ枯れ実態調査12年の結論

2012年08月19日 10時17分52秒 | Weblog
 『日本の科学者』(2012年9月)に興味深い論文があった。「煙樹ケ浜松林のマツ枯れ実態調査」(乾風 登ほか3名)だ。
 和歌山県日高郡美浜町の煙樹ケ浜の幅500m、長さ4・6㎞の松林は、徳川初期に防潮林としてつくられたが、1955年ころよりマツ枯れが発生した。国は、マツ枯れの原因はマツノマダラカミキリによってはこばれるマツノザイセンチュウだとして、農薬散布と枯れたマツの伐採・焼却を進めてきた。ここでは1968年から農薬散布がおこなわれてきた。
 日高地域環境研究会(代表:乾風登)は12年にわたって農薬散布後の虫の死体調査をおこなってきた(うち1年は土壌調査)。論文はその報告だ。11年間の調査の結果、拾った虫の死体は6881個体、そのうちマツノマダラカミキリはたったの5個体にすぎなかった。調査方法は松林内の道路沿いを探す方法だ。蝶や蛾やトンボ、コガネムシ、テントウムシ、セミ、カメムシ、ハエ、ハチ、アリなど多様である。マツノマダラカミキリの死体は、2000年に4個体、2001年に1個体が見つかったのみだ。農薬散布でマツ枯れがへった時期はあるがまたふえている。2002年から見つかっていないが、マツ枯れは2002年261本→2009年434本とふえている。だから別の原因が考えられる。
 原因について、論文は京都大学の二井一禎教授の説を支持する。すなわち、アカマツやクロマツは細根に菌類が共生する「菌根」を形成することで養分の少ない土地で生育する。燃料革命がすすむ以前は松葉をかき集めて燃料や肥料にしてきたから問題はおきなかった。ところが、落ち葉をかかなくなり土地が肥えてくると、雑菌がはびこり「菌根」が衰弱し、マツ林は広葉樹におきかわるようになる。植生の遷移という百年単位の変化がすすむ。日本でマツタケがとれなくなった原因はマツ林の富栄養化にあるのは広く知られている。
 対策としては、土地の富栄養化を阻止し、他の樹木が進出できないようなやせた土地にもどすのが根本的な対策だということになる。海辺のマツ林ならば、落ち葉かきのボランティア隊を組織すれば対策は不可能ではないが、気の遠くなるようなはなしだ。山のマツには無理だ。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする