無知の知

ほたるぶくろの日記

新型コロナウイルスワクチンについて2

2021-07-23 17:26:47 | 生命科学
mRNA(メッセンジャーRNA)は、細胞内で遺伝情報伝達を担う一本鎖RNAです。ゲノムから遺伝情報に基づいたタンパク質を作る過程で、一時的に作られるもの。mRNAは、細胞内にあるタンパク質を作る装置、リボゾームへ行って、タンパク質を作ります。



今回のワクチンでは、トジナメラン(Tozinameran)と名付けられた、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質(の一部)をコードする約4000塩基からなるRNAが使われています。
約4000塩基ですから約1300アミノ酸残基のタンパク質ができます。

生成されるタンパク質は、そもそもヒトはおろか、いわゆる動物界にはないタンパク質です。したがって、ワクチンによって入ってきたmRNAからウイルスのタンパク質ができますと、作ってしまった細胞は「あれ!?変なのができちゃった。」ということで、すぐに壊し始め、それを細胞の表面に提示します。
つまり、その細胞の中ではウイルスにかかったときと同じようなことが起こっています。

その細胞表面に提示されたウイルスタンパクの断片をパトロール中の免疫細胞がキャッチし、免疫システムへ非常事態宣言が出されます。
その時にどの細胞を標的にするのか?の「印」が上記のタンパク質の断片です。「変な奴が入ってきたみたいだ~」ということで免疫システムが動き始めるのです。

それが、新型コロナウイルスに対する免疫を確立するということです。


ところで、一本鎖RNAは物理化学的に弱いこと(室温で1時間もすると断片にになっている)、自然界にはありとあらゆるところにRNA分解酵素があること(例えば唾液や汗にもあります)などから大変扱いにくい物質です。先にコロナウイルスの検出検査が難しい、ということを書きましたが、この辺りの事情が検査方法の確立も難しくしていました。

また今ワクチンの輸送方法についても、超低温を保たなくてはいけないのがネックになっている、など報道されていますが、その通りです。ファイザーがー80度、モデルナはー20度で輸送保管する必要があります。これもmRNAが物理化学的に弱いためです。
もう一つ振動など物理的な力にも弱い。おそらくワクチンの入っている瓶を振っただけで壊れるはずです。ですから輸送の時も瓶に激しい力が加わらないよう、工夫がされているはずです。

また、接種の際に使用する注射針についても一時細い針を使う使わないの議論がありました。これもまたダメで、ある程度の太さの針でないと、注射針の中にワクチンを吸入したり、排出したりするだけでmRNAがズタズタになる、という笑えないことが起きます。


では、こんなにも弱々しい、ウイルスの表面タンパク質をコードする遺伝情報を持ったmRNAをどうしてわざわざ使うのか?

安価で速やかに大量に生産可能であること。精製が楽なこと。逆説的ですが、壊れやすいこと。これらのことからmRNAはワクチンの素材として採用されたと思います。

ウイルスの表面タンパク質をワクチン素材として使うことを考えてみます。
まずこのタンパク質は約1340アミノ酸残基。これを人工的に大量に作るのはかなり大変なことです。
精製もmRNAに比べるととても大変。タンパク質はRNAに比べてはるかに複雑な性質を持ちますので。水溶性かどうかもわからない。よくあるのは塊を作って沈殿してしまうのです。そうなると、ワクチンに使うどころの話ではなくなります。

つまり、mRNAはさまざまの弱点があるのですが、タンパク質を使うよりもはるかにワクチンを作りやすいのです。


ところで、ワクチンの内容を詳しくみますと「mRNAを脂質膜で包んだもの」と書かれています。
実は、mRNAをどうやって細胞の中に入れるのか?というのもまた難題なのです。
この辺りの技術もこれらのベンチャー企業が別の目的で(例えばがんのワクチン療法のため)開発していたようです。
どのような成分の脂質膜にするべきか、は本当に長い間の基礎研究の結果があったからこそ、今回素早く決められたのです。
mRNAを特殊な脂質膜で包んで注射すると、筋肉をはじめとする注射部位の細胞が取り込み、mRNAからウイルスのタンパク質の一部を作り、抗原提示を始める。そしてある程度の時間が経つとmRNAは分解されて無くなっていく。しかし、ウイルスタンパク質の情報は免疫システムに記憶されています。

その状態で2度目の接種を受けます。すると、またウイルス由来のタンパク質が作られ、免疫系は「すわっ、またか!」ということで素早く免疫系システムのスイッチをオンにし、中和抗体をはじめとする、臨戦態勢をとります。この反応が「ブースター効果」と言われ、抗体の量をあげることになります。これで十分な新型コロナウイルスへの免疫が構築された状態になります。

(もう少し続きます)

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