さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【読書録】アンネ・フランクに会いに行く

2022-12-25 10:37:24 | 読書録

谷口長世/岩波ジュニア新書

岩波ジュニア新書はやはり素晴らしいという思いにさせられた。とても読みやすいが濃い内容だ。

冒頭でガツンとやられた。オランダでは「アンネの日記」は主に少女向けの読み物として受け取られているが、日本では「アンネの日記」は大戦の被害者の体験談としてもっと広い読者層があるようですね・・・と言われ、「日本では常に、戦争は日本人に対して被害を与えたものだ、というふうにとらえられているのではありませんか」と現地のアンネ・フランク財団の人に言われるシーンがある。

順番は前後するが、ユダヤの中には、命からがら逃げ出し、南仏→南アフリカ→蘭領インド(インドネシア)と逃げてきたらそこに逃げ込んできた日本軍に捕まり、日本軍の収容所に入れられてしまった人もいるのである。日本だって加害者なのである。それを忘れてはならない・・という気持ちになった。

しかし、誰が加害者で誰が被害者なのか・・というのはそう簡単に分けられることではない。オランダではナチの手先になって動かざるを得なかった人たちが存在する。その中には一部のユダヤ人たちも含まれている。ドイツ以外では、ナチが直接統治をした場所よりも、ナチが間接統治的に支配した地域の方がユダヤ人排斥が進んでしまった・・ということがあるらしい。やらなければやられる・・との脅迫観念から加害者になる・・・人間にはそういうことも起こりうる。政治に無関心あるいは一面的な見方しかできないゆえに、耳に心地よいことばかり言うファシスト政権の台頭を許してしまう・・・一般の人は被害者であっても、結果的に加害者になってしまう側面は常に持っている。

だが、自己反省は自己反省として忘れないとしても、「アンネの日記」をちゃんと読み継いで行くことは重要なことであると思う。単に少女向けの読み物とされてしまうのは勿体なさすぎる。本書は、アンネと同じ頃に収容された人を訪ね歩き、アンネの外側からアンネの日記を補完するように当時の事実に迫ろうとしている。彼女に最後まで協力し、アンネの日記が捨てられないように保護したミップ・ギースさんとの対話が実現したのは大きいな。ナチの手先となって働いた人もいれば、ミップさんのような人もいる。ミップさんの強さに感銘を受ける。

アンネたちは発見された後、ウェスターポルク中継収容所に送られ、そこからアウシュビッツに送られたが、それはなんと最後のアウシュビッツ行きの便だった。アウシュビッツでは一回に2千人がガス室で20分で殺され、20分で焼却された・・とか、ガス室を開けると、天井に向かって死体が小山のように積み重なっているが、それはガスが低い所から充満して行くからで、女性や子供、老人が下敷きになり、力の強い男性が一番上まで登って亡くなっている・・・などという生々しい話も書かれていた。

ガス室行きを免れた場合も、体重70キロの人が、解放されたときは25キロだった・・という劣悪な環境。アンネは姉と共に、アウシュビッツ・ビルケナウからベルゲン・ベルゼンに移送されたが、氷点下・厳寒の中、裸に近い状態でチフスを発症して亡くなった。そのわずか数週間後に、英国軍による収容所解放が行われたのである(アウシュビッツはその前にソ連軍によって解放されている)。

敗走するナチ軍につれて行かれた人達も悲惨である。力尽きると後ろから銃で撃たれる。そうした中で生き残った人たちもいる。アンネの父オットーは隠れ家の唯一の生き残りで、解放後、ウクライナから船で南仏に行き、鉄道を乗り継いでアムステルダムに戻ってきた。

一人一人に違う物語がある。本書はアンネを中心に拾いつつも、さまざまな人の証言を載せている。著者は一度アンネフランクの家を訪れていて、10年後に気になり、再訪した上でこの本を書いている。そういう意味では私もアムステルダムは一度行っているのである。トルコ旅行時に直行便がなく、帰りのアムステルダムの乗り継ぎで6時間待たされるため、急遽組まれた短時間のアムステルダムツアーに参加したのである。その中で、アンネの家はあそこの通りをずっと行ったところにある・・的なことを言われたが、気持ちがトルコにあったので何の感慨も抱かなかったことを、今になって反省している。

※本書が、今年読んだ記念すべき100冊目の本になった。

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