これは素晴らしい書物を番組でとり上げてくれたものだ。
源氏物語は今でこそ、何人もの文学者に現代語訳され、漫画にもなり、親しまれているが、初めて現代語に訳したのは与謝野晶子なのだという。与謝野晶子は2回源氏物語を現代語訳しているが、その1回目と2回目の間の時期に大英博物館の学芸員であったウェイリーが、日本語を一から学んで源氏物語を英訳したのだという。ウェイリー氏も素晴らしいし、そこまでの熱意をウェイリー氏に起こさせた源氏物語もまたすごいと思うのだが、一度英訳された源氏物語を元にそれを日本語に訳し直した源氏物語をベースに番組は進んでいく。
我々にとって古典とは典雅な響きのものであり、意味がよく分からなくてもその響きを楽しんで、深く突っ込む気になれないようなところがある。それはそれで良いと思うのだが、一度英訳する際に徹底的に分析され、わかりやすい表現になっているところを活かしつつ毬矢まりえさんと森山恵さんによって和訳されたものを読むと、原作では隠れていたイメージが明らかになってくるというのである。
私は若い頃、源氏物語を与謝野晶子訳で読んだし、大和和紀さんの「あさきゆめみし」も読んだ。しかし今まで光源氏について、恋愛に苦しみながらいろんな力を獲得し、人を救う存在になったなどということは考えもしなかったが、ウェイリー訳を読むと、例えばそういう要素が見えてくるというのである。
ウェイリーが英語に訳してくれたからこそ、源氏物語は世界に知られ、世界最古の小説として、我々日本人も誇らしく源氏物語を語ることができる。改めてウェイリー訳の更なる和訳で源氏物語を読み直してみたいと思うのであった。