70年代中盤頃のアバド壮年期の名演奏。私がクラシックを聴き始めたのは80年代初頭くらいからだけど、80年代中盤頃だったと思うが、当時廉価盤ばかり購入していた私がこれについては、珍しく大枚をはたいてボックス・セットを購入した記憶があるくらいだから、よほど高く評価されていたのだろうと思う。それからぐっと下って、とはいってもこれも大分前になるが、三大バレエから「火の鳥」と「春の祭典」が収録された1000円盤をめっけてきたので、聴いてみたところ、LP時代とあまりに違う音になっているのに愕然とした。CD化されたアナログ音源を聴くときに、ままある現象なのだが、テープのヒスノイズを抑え込むの腐心した結果なのだろう、この時期のアバドらしい鋭角的なサウンドがすっかり影を潜め、なにやらぼんやりとした「ぬるい音」になってしまっていた。
なにしろこの時期のアバドといったら、やや骨張ってはいるがモダンでスマートなシャープさが売りだったはずである(マルチマイクで楽器に近接した録音というのもそれに大きく荷担した)。そのあたりに惚れ込んでアバドという指揮者のイメージを作り上げた人も多いはずだ、もちろん私もそうである。ところが聴こえてきたのは「元は絶対、こんな寝ぼけた音じゃねーよな」と思わずにはいられないほどに腑抜けた音だったので、私はいかにもがっかりしてしまい、もうほとんどこのCDを取り出すことがなくなってしまったのだ。このアルバムはこのところ三大バレエを頻繁に聴いている関係から、そのリベンジとばかりに数日前に購入したものだ。こちらは「ペトルーシュカ」もはいってるし、なにしろOIBPというドイツ本国でリマスタリングなのが強み、日本国内したリマスタリングに比べれば多少は聴き映えがするのでは?と思った次第である。
で、実際聴いてみると、ディテール表現など国内盤よりは遙かにいいが、やはりアナログ盤とは根本的に感触が違うように感じた。あのざっくりとした感じがどうも伝わってこないのだ。特に72年に録音された「火の鳥」は、三大バレエの中では当時にしてから、あまり記憶に残るような演奏でもなかったのだが、今聴くと更に普通な演奏にしか聴こえない。一方、「春の祭典」は耳を澄ませば、当時の感覚がフラッシュバックするくらいの音にはなっている。第一部後半、第二部中盤あたりの荒れ狂うような場面、まさにアバドの楽器と化したLSOが、狂乱の一歩半くらい前で音楽を躍動させていく様はいかにもアバドらしいところだと思う。もちろんこういうバランス感覚が煮え切らないと思う向きもあるだろうし、スマートで理知的な現代性を感じさせて好感をもつ人もいるとは思う。私の場合、「春の祭典」についていえば後者だ(とはいえ、この演奏ですら、今の耳からすると、けっこう当たり前の演奏になりつつあるとは思う)。
「ペトルーシュカ」は多分、アバドのデジタル録音のもっとも最初期のものだったと思う。したがって、三大バレエの中では録音が一番新しく、たんに聴こえてくる音だけで判断するならこれが一番リッチで絢爛たる響きがする、最新録音に比べてもさほど遜色ないと思えるほどだ。演奏についてもほど良いドライブ感とシャープ感覚が渾然一体となっていいムードを出していると思う。曲の骨格をがっちりと表現しつつ、アバドらしく律儀なほどに克明さも追求し、トラディショナルな旋律部分は思い切りよく歌う....とほとんどアバドの美点をもれなく表現しているといっていいと思う。もっとも、この曲の持つファンタジーとか哀愁のようなものとなると、いささか雲散霧消状態なところはないでもないが、30年前の「ペトルーシュカ」演奏としては、ほとんど満点に近い演奏だったのではないだろうか。という訳で、今回聴いた3曲の中で一番良かったのは文句なく「ペトルーシュカ」であった。
なにしろこの時期のアバドといったら、やや骨張ってはいるがモダンでスマートなシャープさが売りだったはずである(マルチマイクで楽器に近接した録音というのもそれに大きく荷担した)。そのあたりに惚れ込んでアバドという指揮者のイメージを作り上げた人も多いはずだ、もちろん私もそうである。ところが聴こえてきたのは「元は絶対、こんな寝ぼけた音じゃねーよな」と思わずにはいられないほどに腑抜けた音だったので、私はいかにもがっかりしてしまい、もうほとんどこのCDを取り出すことがなくなってしまったのだ。このアルバムはこのところ三大バレエを頻繁に聴いている関係から、そのリベンジとばかりに数日前に購入したものだ。こちらは「ペトルーシュカ」もはいってるし、なにしろOIBPというドイツ本国でリマスタリングなのが強み、日本国内したリマスタリングに比べれば多少は聴き映えがするのでは?と思った次第である。
で、実際聴いてみると、ディテール表現など国内盤よりは遙かにいいが、やはりアナログ盤とは根本的に感触が違うように感じた。あのざっくりとした感じがどうも伝わってこないのだ。特に72年に録音された「火の鳥」は、三大バレエの中では当時にしてから、あまり記憶に残るような演奏でもなかったのだが、今聴くと更に普通な演奏にしか聴こえない。一方、「春の祭典」は耳を澄ませば、当時の感覚がフラッシュバックするくらいの音にはなっている。第一部後半、第二部中盤あたりの荒れ狂うような場面、まさにアバドの楽器と化したLSOが、狂乱の一歩半くらい前で音楽を躍動させていく様はいかにもアバドらしいところだと思う。もちろんこういうバランス感覚が煮え切らないと思う向きもあるだろうし、スマートで理知的な現代性を感じさせて好感をもつ人もいるとは思う。私の場合、「春の祭典」についていえば後者だ(とはいえ、この演奏ですら、今の耳からすると、けっこう当たり前の演奏になりつつあるとは思う)。
「ペトルーシュカ」は多分、アバドのデジタル録音のもっとも最初期のものだったと思う。したがって、三大バレエの中では録音が一番新しく、たんに聴こえてくる音だけで判断するならこれが一番リッチで絢爛たる響きがする、最新録音に比べてもさほど遜色ないと思えるほどだ。演奏についてもほど良いドライブ感とシャープ感覚が渾然一体となっていいムードを出していると思う。曲の骨格をがっちりと表現しつつ、アバドらしく律儀なほどに克明さも追求し、トラディショナルな旋律部分は思い切りよく歌う....とほとんどアバドの美点をもれなく表現しているといっていいと思う。もっとも、この曲の持つファンタジーとか哀愁のようなものとなると、いささか雲散霧消状態なところはないでもないが、30年前の「ペトルーシュカ」演奏としては、ほとんど満点に近い演奏だったのではないだろうか。という訳で、今回聴いた3曲の中で一番良かったのは文句なく「ペトルーシュカ」であった。