つつじの書・・

霧島つつじが好きです。
のんびりと過ごしています。
日々の暮らしを、少しずつ書いています。

エッセイ 寺前

2022-02-08 12:00:12 | 楽しい仲間



                先生の講評・・・昔をしのぶメルヘンタッチの文体が素材にマッチして優れている。
                               前回の『炭火』と同じ、田舎の思い出を書くと、先生から、及第点がもらえるようだ。・・・つつじのつぶやき


                      エッセイ 寺前 課題【水・土】 2018.5.25    

              実家の近くに寺前というバス停がある。
              そのバス停前のお寺は、雨戸が破れ、建物の片方が崩れて廃屋になっている。
              古い瓦は白い埃をかぶり、もうすぐ土になりそうだ。
              その周りは竹藪が鬱蒼と覆い、後ろは何軒かの共同墓地になっている。
              周りに人家はない。夜など、竹藪の中から何か出てくるような気がして、結構気味が悪い。
 
              大分前に母から聞いた話。
              町の知り合いからお土産を沢山貰って終バスに乗り、疲れて眠っていた。
              「寺前、降りる人いませんか」の声に吃驚して目を覚まし返事をしてしまった。
              いつも降りるのはその先の停留所だった。
              運転手に悪いと思い降りた。
              バスが走り去った後は真っ暗闇、強い風にあおられた竹藪がざわざわとし、とても怖かったと。
 
              母は怖いもの知らずだと思っていたから、この話を聞いて「へ——」と思った。
              重い荷物を持って、こわごわ歩く姿を想像すると何だか可笑しく、母の内緒話を聞いたように感じた。

              私が小さい頃は、お寺に人が住んでいた。
              こぢんまりした庭の隅に釣瓶が下がった井戸があり、いつも何かの花が咲いていた。
              時々、祖母は野菜などを籠に詰めては、お寺に持っていく。
              縁側から声をかけると、祖母と同じような黒っぽい着物に前掛けをかけた人が出てくる。頭が坊主だった。
              帰り道、「あの人はオトコ? オンナ?」と聞くと、振り向いてニヤニヤしながら、自分で聞いてごらんといった。
              ある時聞いた。
              「小母ちゃん、本当はオトコ?」
              「どっちだか当ててごらん」
              「頭が坊主だからオトコ」
              祖母と二人、大きな口を開けて笑い、「ほら」と言いながら胸をはだ見せ、下も見せようかと、着物の裾を捲った。

              何となく覚えている光景だが、祖母はこの話を何度もして笑った。




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