先生の講評・・・昔をしのぶメルヘンタッチの文体が素材にマッチして優れている。
前回の『炭火』と同じ、田舎の思い出を書くと、先生から、及第点がもらえるようだ。・・・つつじのつぶやき
エッセイ 寺前 課題【水・土】 2018.5.25
実家の近くに寺前というバス停がある。
そのバス停前のお寺は、雨戸が破れ、建物の片方が崩れて廃屋になっている。
古い瓦は白い埃をかぶり、もうすぐ土になりそうだ。
その周りは竹藪が鬱蒼と覆い、後ろは何軒かの共同墓地になっている。
周りに人家はない。夜など、竹藪の中から何か出てくるような気がして、結構気味が悪い。
大分前に母から聞いた話。
町の知り合いからお土産を沢山貰って終バスに乗り、疲れて眠っていた。
「寺前、降りる人いませんか」の声に吃驚して目を覚まし返事をしてしまった。
いつも降りるのはその先の停留所だった。
運転手に悪いと思い降りた。
バスが走り去った後は真っ暗闇、強い風にあおられた竹藪がざわざわとし、とても怖かったと。
母は怖いもの知らずだと思っていたから、この話を聞いて「へ——」と思った。
重い荷物を持って、こわごわ歩く姿を想像すると何だか可笑しく、母の内緒話を聞いたように感じた。
私が小さい頃は、お寺に人が住んでいた。
こぢんまりした庭の隅に釣瓶が下がった井戸があり、いつも何かの花が咲いていた。
時々、祖母は野菜などを籠に詰めては、お寺に持っていく。
縁側から声をかけると、祖母と同じような黒っぽい着物に前掛けをかけた人が出てくる。頭が坊主だった。
帰り道、「あの人はオトコ? オンナ?」と聞くと、振り向いてニヤニヤしながら、自分で聞いてごらんといった。
ある時聞いた。
「小母ちゃん、本当はオトコ?」
「どっちだか当ててごらん」
「頭が坊主だからオトコ」
祖母と二人、大きな口を開けて笑い、「ほら」と言いながら胸をはだ見せ、下も見せようかと、着物の裾を捲った。
何となく覚えている光景だが、祖母はこの話を何度もして笑った。
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