鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ヤマゲラ

2011-05-04 16:29:49 | 鳥・一般
Photo
All Photos by Chishima,J.
ヤマゲラのオス 2007年2月 北海道札幌市)

(2011年2月7日釧路新聞掲載「道東の鳥たち23 ヤマゲラ」より転載 写真・解説を追加)


 2、3月の山林は景色こそ冬ですが、鳥たちは近付きつつある春を予感させてくれます。ハシブトガラやヒガラといったカラ類は、高らかな囀りで次の繁殖に備えます。キツツキの仲間が木を激しく叩く、「ドラミング」も聞こえるでしょう。「ピョーピョーピョー…」という、口笛のような尻下がりの声がすることもあります。丹念に探せば、木の幹に垂直に張り付く緑色のキツツキがいるかもしれません。

 声の主ヤマゲラは、市街地でも身近なアカゲラよりやや大型のキツツキです。背中から翼にかけて鮮やかな黄緑色で、それ以外の部分は灰色、オスは頭に赤色部があります。平野から山地の森林に生息し、数は多くないものの、中規模以上の林があれば平地でも見られます。キツツキというと木の幹や枝を穿ちながら餌を取るのが一般的ですが、積雪期以外は地上でもよく採餌し、アリの巣を掘り返して、長い舌を活かして食べます。それ以外の昆虫や木の実、冬に市街地へ飛来し、餌台の脂身を食べることもあります。


地上で採餌するヤマゲラ
2007年4月 北海道河東郡鹿追町
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 山だけに棲むわけでないのに、ヤマゲラの名が付いたのはなぜでしょう?この「山」は「人の住む、中心的な所から離れた山の手」と解釈されています。江戸時代後期には「しまあをげら」とも呼ばれていました。「島に棲む緑色のキツツキ」の意で、どちらの名もヤマゲラが日本では北海道だけにいることに因るものです。本州から九州にかけては、よく似た別種のアオゲラが棲んでいます。一方、世界的にはヤマゲラは、ユーラシア大陸に広く分布しています。このように、ユーラシア大陸と北海道には分布していて、本州以南の日本にいない鳥が、実は何種類もいます。シマフクロウやエゾライチョウ等がそうですし、エナガやカケスは本州とは亜種(同じ種でも姿形が異なり十分に区別できるもの)が異なります。逆に本州以南にいて北海道に分布しない鳥にヤマドリ、キジ等があります。


アオゲラ(オス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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エナガ(亜種シマエナガ
2010年9月 北海道河東郡音更町
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 津軽海峡が分布の境界線となっているのです。約2万年前の最終氷期、海面が最大で130m低下した際、水深の浅い北海道とサハリンやユーラシア大陸間の海は陸地化して動物が往来したのに対し、水深が深い津軽海峡は海のままで動物が渡れなかったためと考えられています。そのことに最初に気付いたのは1880年、英国人のトーマス・ブラキストンでした。来日するのに妻同伴で雪氷のシベリアを犬橇で横断し、帰国の際は帆船で黒潮に乗って太平洋を北上したという、徹底した探検博物学者だった彼は、貿易商として函館に20年以上居住しながら、日本の鳥獣を精力的に集めました。1000点を超える鳥類標本は、100年以上を経た今も北大植物園・博物館に所蔵されています。そして、生物分布境界線としての津軽海峡には「ブラキストン線」の名が冠せられました。
 ブラキストン線は鳥よりも哺乳類で、より分かりやすいかもしれません。本州以南にいない種はヒグマ、ナキウサギ、エゾモモンガ等、その逆にツキノワグマやニホンザル等があります。鳥は飛翔力があり、種によっては海峡を飛び越えられますが(ヤマゲラも過去に一度だけ、栃木県で捕獲されています)、哺乳類では海峡が移動上の大きな制約となるためです。


カケス(亜種ミヤマカケス
2007年2月 北海道河東郡上士幌町
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ナキウサギ
2006年6月 北海道河東郡鹿追町
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(2011年2月2日   千嶋 淳)



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