鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

聞き慣れぬ声

2006-12-25 17:02:05 | 鳥・一般
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All photos by Chishima,J.
ガビチョウ 2006年12月 山梨県上野原市)


 1週間ほど山梨と群馬に行っていた。山梨はゼニガタアザラシ関係者の会議のためで、鳥を見る時間はほとんど無かったのだが、会議初日は午後の開始だったので、午前中に泊まっていた大学のゲストハウス周辺を歩いてみた。丘陵地帯の頂上部にあるため、周辺には雑木林が点在しており、鳥影は薄くない。歩き始めて間もなく、1羽のキジのオスと出会う。北海道には分布していない種との対面に、自分が今本州にいることの実感を強くする(コウライキジは人為的な導入によって北海道に分布しているが、十勝地方では寒冷なためかほとんど定着していない)。

キジ (オス)
2006年12月 山梨県上野原市
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 アオジが「チッ」と鳴いて地面から藪に飛び込む。北海道では春夏を通じて高らかに歌っていたこの小鳥も、今は穏静な越冬生活を送っている。キジが消えた林縁から、「キュルキュル…」と賑やかな声が、曇った初冬の朝の静寂を打ち破る。ムクドリだろうか?しかし、「キュルキュル…」の後にツグミ類の囀りのような節回しが入り、違うようだ。声のする方に双眼鏡を向けると、ツグミくらいの大きさで目の周りが白い褐色の鳥が数羽、地面からそう高くない草や潅木の枝に止まっている。「これがガビチョウという奴か…」。初めての出会いながら、普通のライファーのように素直に喜べずにいた僕を尻目に、ガビチョウたちは一際けたたましく鳴きながら、斜面の下方へ移動していった。


ガビチョウ
2006年12月 山梨県上野原市
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ガビチョウの生息環境
2006年12月 山梨県上野原市
下層植生の発達した低地林に多く生息する。東京・神奈川・山梨の県境付近は、関東地方の分布の中心である。
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                  *
 群馬は実家への帰省であり、短い時間ながら鳥見を楽しむことができた。自分が鳥を覚えた思い出の場所。一つ一つの出会いが、まるで昨日の出来事のように克明に脳裏に刻まれている。若干感傷的な気分に浸りながら、短い冬の日中に、散開する落葉を掻き分けながら懸命に採餌するツグミやシメを観察していると、河岸段丘の林から「キュルル、ピーウィ」と聞き慣れぬ声。9月にも同じ場所でその声を聞いたが、生い茂る葉に阻まれて姿を確認することはできなかった。それ以前には決して聞くことの無かった声だ。今回は葉がかなり落ちていることもあり、音源をかなり狭い範囲まで絞り込むことができた。なんとか姿を見出そうとしても、声は常緑樹やブッシュの中を巧みに移動して、おいそれとはその姿を白日の下に晒してはくれない。それでも、目を凝らすこと凡そ10分、声の主を発見することができた。ツグミ大のその鳥は、かねてから予想していた通り、全身がウグイスのようなオリーブ褐色で、顔の大部分が白いカオジロガビチョウであった。5羽ほどの小群で行動していたが、その後付近で10羽ほどの別の群を見たことや、前日に少し離れた地点でも声を聞いていることから、この地域にかなり定着しているものと思われた。


ツグミ
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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シメ 
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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カオジロガビチョウ
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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                  *
 ガビチョウもカオジロガビチョウも中国から東南アジアを原産とするチメドリ科の鳥類で、元々は日本に生息していない。飼い鳥として輸入されたものが逃亡、もしくは人間が故意に放したことによって、日本の山野に生息するようになった。ガビチョウは1980年代から神奈川や東京を中心に分布を広げ、現在では宮城から熊本までの12都県で定着が確認されている。カオジロガビチョウは1990年4月に群馬県大間々町で最初に確認され、90年代には赤城山南面の比較的狭い範囲に分布していたが、2000年頃から群馬県の平野部にも分布を拡大し、近年では茨城県、栃木県でも観察されている。
 人間が国境を越える以上、移入種というのはどうしても生じるものである。古いものではドバトやコジュケイ、コブハクチョウなども移入種であるし、近年では都会のワカケホンセイインコや河川敷のベニスズメなどは有名なところである。それでも、ガビチョウなどのチメドリ科鳥類に特異的だと思うのは、その進出速度の速さと森林への侵入であろう。いずれのチメドリ科鳥類も、せいぜいこの10~20年程度の間に導入されたにも関わらず、恐ろしいスピードで日本の山野に定着しつつある。さらに、これまでの帰化鳥が都市や水辺などごく限られた環境で暮らしてきたのに対し、森林という鳥類にとって重要かつ広面積な環境に進出し、場所によっては鳥類群集の構造を変化させるほどの影響を与えている点に特徴がある。そのような事情もあり、上記2種はソウシチョウやカオグロガビチョウとともに外来生物法の特定外来生物に指定され、飼育や輸入、運搬などが規制されている。ただ、一度野外に定着してしまったものを完全に根絶するのは困難であろう。移入種の個体数や種数をこれ以上増やさないようにするための努力が求められている。


コブハクチョウ
2006年2月 群馬県館林市
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ガビチョウ
2006年12月 山梨県上野原市
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*群馬県のカオジロガビチョウの分布状況については、「深井宣男.2006.ガビチョウ類とソウシチョウの県内の分布状況.野の鳥(278):3-5」を参考・引用した。

(2006年12月25日   千嶋 淳)


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