![Photo Photo](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/b7/f400545d969f8453a1afd18f1ea5626d.jpg)
All Photos by Chishima,J.
(ミナミオナガミズナギドリ 2008年9月 北海道目梨郡羅臼町)
前に少し書いたが、この春から道東太平洋側(えりも~根室)の鳥類目録の編集に携わっている。当初の予定だと11月には完成して、年末はゆったり鳥見三昧と洒落込むはずだったのだが、年も押し迫って来た現在、出版どころか印刷にすら漕ぎ着けていない。その要因の一つは、二言目には「予定通りのスケジュールで進む出版物など無い」と嘯く私の能力の無さにあるが、今一つ挙げるとすると、鳥の記録というものを扱うことの難しさである。
一般に生物の分布記録の収集は、標本の採集によって行われる。植物や昆虫、魚類等は今でもそうした傾向が強い。鳥類もかつてはそうであったのだが、鳥類保護の観点から採集が困難に、また望ましくなくなり、更にバードウオッチャーの増加に伴って、現在では写真や観察記録が鳥類の分布情報の主流となっている。そして、そうした情報の量は実に膨大なものであり、その質もまたピンキリである。はっきり言って、胡散臭い情報も少なくない。それらをどこまで目録の内容に反映させるか、これが問題なのだ。
キセキレイ(オス夏羽)
2008年6月 北海道上川郡上川町
![Photo_2 Photo_2](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/e9/7d14daa754c8d06768b702ec26d330cb.jpg)
このような場合、研究者が一般に用いるのは「公表されている記録」である。公表されている記録とは、学会誌、大学・博物館等の紀要、報告書など何らかの印刷物になっている記録である。これはわかりやすいし、学会誌では複数の専門家による査読を経ていること、紀要などの査読なしでも出版物として活字になる以上、ある程度の信頼がなければならないという考えに基づいている。ところが、これにも落とし穴がある。専門家による査読を経ているはずの学術雑誌における種の同定間違いを、十勝地方に関するものだけでも2例、今回の作業中に発見した。このようなミスが生じる要因として、古いものについては野外識別に関する知見が乏しかったこと、最近では学問の細分化で鳥類全体に通じた研究者がロクにいなくなったことなどが挙げられよう。また、査読なしの出版物では基本的に執筆者の意向に任せられるため、記録の真偽が不明なものがままある。たとえば、1970年代に十勝海岸の湧洞沼で行われた鳥類調査の報告書には、5~8月にヒメクイナが記録されたとあり、これが30年を経た現在でも十勝唯一の記録として、諸目録にも広く引用されている。しかし、報告書を読んでも写真や標本等の有無はわからないし、具体的にどのような状況で観察されたのかの記述も無い。同調査では、現在夏期には普通に生息しているクイナがまったく記録されていないことも考え合わせると、クイナとの誤認の可能性を疑いたくなるが、観察状況に関する記述が無いため、その検証も不可能である。このような記録を、活字になっているという理由だけでおいそれと採用してしまうのは何とも権威主義的であり、いかがなものかと思う。
バン(幼鳥)
2008年9月 北海道中川郡豊頃町
![Photo_3 Photo_3](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/81/3d1c3962dc13de9f0f2c5f7bd63a4fb0.jpg)
その一方で、一般の観察者による記録で論文や報告にはなっていないが、鮮明な写真が撮られている、死体が拾得されているなど客観的な証拠を伴う記録というのは決して少なくない。そうした記録は論文等で報告すべきというのは正論だが、すべてのバードウオッチャーが研究者のようにすらすら論文が書けるわけではないし、学術雑誌にそれだけのキャパシティ‐もまた無いのが現実であろう(そういう意味では、近年、野鳥の会の支部や地域の野鳥団体の単位で、年報や記録集の類が出版されるようになって来たのは、良い傾向といえる)。
ツグミ
2008年4月 北海道中川郡豊頃町
![Photo_4 Photo_4](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/7c/f74683f25b6fd91cc0542947d3f403ad.jpg)
こうしたことを関係者で喧々諤々、時に声を荒げながら議論してきた結果、現在編集中の目録では、各種を2つのランクに振り分けることによって問題の解決を図ろうということで話が進みつつある。「ランクA」は写真、標本、音声、標識記録など客観的な証拠があり、なおかつその所在が確認できた種類で、道東から確実な記録のある鳥類といえる。「ランクB」はそれらの客観的資料が存在しない、もしくはその所在を確認できない種類である。この判定には既存文献への記載の有無は関係なく、未発表でも鮮明な写真があればランクAとみなすし、文献に記載があっても客観的資料の無いものはランクB扱いとなる。また、ランクB種については、記録を否定している訳ではなく、あくまでも写真等の証拠が無いということである。それらの記録をどう捉えるかは、最終的には利用する側に委ねられることになろう。
この作業を、地域全体についてはほぼ終え、現在は各支庁単位での記録の検討を行っている。これがまた終わりの見えない遠大な仕事で、日々の酒量は増えるばかりである。「終わりが見えないのは、こんな駄文ばかり綴っているからだ」と天の声が聞こえてきそうなので、この辺で筆を置く。「目録」は、来年の早い内には世に出せるはずである。
エリマキシギ(オス夏羽)
2008年5月 北海道中川郡幕別町
![Photo_5 Photo_5](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/9a/9a8ec9d7981d8d8af5a48238c08880aa.jpg)
ゴジュウカラ(亜種シロハラゴジュウカラ)
2008年12月 北海道中川郡池田町
![Photo_6 Photo_6](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/61/cd89cebaebdf7d098d03129b7955541c.jpg)
(2008年12月19日 千嶋 淳)
そう、今、私は東京に逗留して、三重に行ったり、今度からは茨城に通ったりすることになりそうです。東京の三面護岸化された神田川でもカルガモがペアで戯れていたり、オナガガモが長い尾羽を水面に立てていたり、水路に沿ってカワウが飛んでいたり、こんなとこでも鳥たちって本当にたくましいなあと思わされます。私も負けじと、コンクリジャングルの中を自転車で低空飛行してます。
北海道とは比較にならないけど、東京でも大きな木やら、古いお化け屋敷みたいなジャングル化した家があったり、スポット的に緑が目に付きます。都会では本当に緑のありがたさを実感します。
こんな生活がいつまで続くか分かりませんが、もし東京に来ることがあったら声かけて。東京近辺の鳥見ポイントあったら教えてちょ。ワシ・タカ類なんか見れるとこないかなあ。
鳥というのは繊細な反面、実にしたたかなもので、コンクリートジャングルの都会にも実に沢山の鳥が暮らしています。僕は羽田空港に着いたら、浜松町までのモノレールの車窓から鳥を探すのを習わしとしていますが、あの短い区間でも季節によっては10~20種くらい見れますよ。都会の鳥はよく人間を見ていて、悪さをされないことがわかると、こちらでは考えられないくらい人の接近を許してくれます。なので、何年かに一度は観察・撮影のため、東京へ鳥を見に行きます。
このところ出かけてないので、そろそろ行きたいですね。その時は昼鳥見、夜居酒屋のフルコースを楽しみましょう。鳥見ポイントはネットや市販のガイドを参照してみてください。猛禽はちょっと郊外に出た方が面白いけど、不忍池上空を飛ぶミサゴや、明治神宮の林内を縫うノスリを見たことがあるから、意外と身近な所にいるかもしれませんよ。
鳥類目録の記録の話し、興味深く読ませていただきました。私事ですが以前小生も野鳥の会広島県支部で「ひろしま野鳥図鑑」編集の際、記録検討委員会なるものをやっており、同じ様な苦労や感想を抱いたものでした。
広島の場合、県内をメッシュに分割し、繁殖記録、観察記録をプロットしましたが、観察者の同定能力の信頼度を差別化するわけにいかず、分布図のメッシュに新規に記録される(珍鳥や分布拡大)についてのみ検討委員会で検討し、写真などの根拠を提示して頂くという形で対処していたのを思い出しました。
また時々覗かせていただきます。
広島県支部での事例を御教示いただき、ありがとうございました。大変参考になります。分布情報は充実していた方が保全の役にも立つので、多くの記録を積極的に採用したい反面、記録の信憑性との間に抱えるジレンマは、このような仕事をなさる誰もが直面する問題なのですね。
今回の目録では、十勝、釧路といった支庁単位では写真、標本等の所在を確認して「裏を取る」予定ですが、より細かい市町村単位ではおそらくそこまでできないのが悩みです。また、市町村は広さもまちまちなので、本来は貴支部のようにメッシュで分布を表示するべきなのでしょう。●年後の改訂版に向けての課題です。
今後ともよろしくお願い致します。