All photos by Chishima,J.
(キリアイの幼鳥 2005年9月 北海道勇払郡鵡川町(当時))
早いもので9月も三分の一が過ぎ去り、日ごとに夏の存在感が薄くなっていくような気がする。わが国では大部分が旅鳥であるシギやチドリの渡りは、8月後半の成鳥のピークを終え、すでにシーズンの後半に入っている。それなのに、今年は怪我をしていたこともあり、ほとんどシギチを見に行けていないのが残念でならない。7月下旬に野付で渡りの走りを見た(「秋の気配」)以降、繁殖しているコチドリやイソシギを除くと、最近見たのはクサシギとトウネンくらいだろうか…。
クサシギ(幼鳥)
2006年9月 北海道河東郡音更町
トウネン(幼鳥)
2006年9月 北海道十勝郡浦幌町
仕方ないので、図鑑やインターネットでシギチの絵や写真を見ての疑似体験で自分を誤魔化している。近頃はインターネットの普及で、家にいながらにして全国各地、否全世界の鳥の画像が見られるようになったのだから、便利なものである。それでも、気が付くと「フィールドガイド日本の野鳥」(高野伸二著)の図版を眺めていたりするから面白い。きっと、この本でほとんどの鳥を覚えた、いわば原点みたいなものだからだろう。
「この本」を初めて手に取った時の感動は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。中でも、ハクセキレイのページは忘れがたく、普通種の本種にほぼ1ページを費やして、10点以上のイラストで4亜種を図示しているのには圧倒された。小学校低学年だったが即効親に買ってもらい、取り付かれたように読み耽った。
とりわけ、シギチのページはよく開いた。この仲間が好きだったことに加えて、内陸の群馬では出会うことの少ない種に対する憧れみたいな感情もあったのだろう。60種以上もいるシギやチドリの中には、ハマシギやアオアシシギなど「名が体を現」したわかりやすい和名もあれば、小学校低学年の国語力では理解不能な和名もいくつかあった。
ハマシギ(冬羽)
2006年2月 千葉県船橋市
その筆頭はキリアイであろう。特に深くは考えなかったが時に気になり、「切り合い」や「斬り合い」などという時代劇の中でしかお目にかかれなさそうな光景を頭に浮かべたこともあった。実際には嘴が錐を合わせたようなことに由来することを知ったのは、本物のキリアイと出会う前だったか、後だったか。高校生くらいの頃は、英名のBroad-billed sandpiper(幅広い嘴のシギ)の方が特徴をよく現していて便利じゃないかなどと思ったものだが、今となってはこの粋な和名を付けた日本人の詩心の方が断然上と、心から思う。
休息中(キリアイほか)
2005年9月 北海道勇払郡鵡川町(当時)
まるでクイズのように皆頭を引っ込めている。答えを下に書いておくので、暇な人は挑戦されてはいかが?
ほかにも、トウネンやダイゼンなどの意味が当時はわからなかった。トウネンが「当年」で、トウネンの小ささが当年子、すなわちその年生まれの子供ぽいことに由来することはじき知ったが、ダイゼンの語源を知ったのはずいぶん後になってからだった気がする。ダイゼン(大膳)とは宮中の宴会料理であり、肉の味の良いダイゼンがこれに用いられていたことに因る名前らしい。江戸時代中期にはすでに「だいぜんしぎ」の名で知られていたそうである。
トウネン(幼鳥)
2005年9月 北海道勇払郡鵡川町(当時)
ダイゼン(冬羽)
2006年2月 千葉県習志野市
時代は変わってダイゼンが宴会料理に出てくることもなくなったが、ダイゼンだけでなく多くのシギやチドリにとって世の中が住みにくくなっているように感じるのは、いささか哀しいことである。
十勝川・初秋
2006年9月 北海道中川郡幕別町
両岸に河畔林を従えて悠々と流れる水面の奥には、日高の蒼い山並。
オオアワダチソウの群落。一面の黄色は美しいが、北米原産の帰化植物である。
オオアワダチソウに止まるベニシジミ
2006年9月 北海道帯広市
そんな帰化植物も、今をしたたかに生きる生き物たちにとっては貴重な資源の側面をもつ。
(2006年9月10日 千嶋 淳)
参考文献:菅原浩・柿澤亮三編著.2005.図説 鳥名の由来辞典.柏書房,東京.
「休息中」の答え
左からキリアイ、ハマシギ、ハマシギ、トウネン(いずれも幼鳥)。
久々に家にいますがまた出かけます また面白い時期になりましたね
私も来週は久々に関東に行き、シギを見る予定です。秋雨が少々心配なところですが。