鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

小さな国際空港

2007-08-22 17:34:44 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
タカブシギ(手前)とヒバリシギ 以下すべて 2007年8月 北海道帯広市)


 春にタカブシギの小群が飛来した郊外の水路へ行ってみた。このところの猛暑と少雨によって水が減り、小さな水溜りくらいの水域が点在する程度だったが、コチドリやイソシギといった付近で繁殖する種にくわえて、タカブシギやヒバリシギの姿もあった。午前中から30℃を超える暑い日、シギたちは炎天下、小さな水域を忙しなく歩き回り、土中や水中の餌をついばんでいた。私は岸辺に生えた草に身を隠して匍匐前進しながら彼らに近付き、比較的近距離でその行動や仕草を観察することができた。じっとしているだけでも汗が噴出してくるのは辛かったが、その辛さをも忘れさせてくれる、楽しい一時であった。


コチドリ(幼鳥)
背後にはヒバリシギの姿も。この日撮影した写真の大部分は、猛暑による陽炎に揺れていた。
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 春のタカブシギの時も思ったが、シギたちは長旅の途上で、よくこんな猫の額ほどの湿地を見つけるものである。タカブシギやヒバリシギはツンドラやカムチャツカ等で繁殖し、南西諸島以南の東南アジアや豪州で越冬する。その旅の途中、北海道の、しかも内陸部にある小さな湿地を見つけて降り立つのだから大したものだ。


タカブシギ(幼鳥)
翼上面に現れる白斑が褐色みを帯びるのが幼鳥の特徴。内陸性シギ・チドリ類の中では普通種の一つだが、この仲間の御多聞にもれず渡来数は減少傾向にあると言われている。
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 しかも、今回観察されたのは軒並み今年生まれの幼鳥たちだった。多くのシギ・チドリ類では、秋の渡り時に成鳥と幼鳥で渡来数のピーク時期にずれがあり、総じて成鳥の方が早い。したがって、成鳥が先に渡り、幼鳥が後に渡ると考えられている。水路に飛来した幼鳥たちは、この場所を事前に知っている筈が無いのに見事に見つけ出したのだ。大まかな目的地や経路は、遺伝的なプログラムあるいは星や地磁気の定位によって親から教えられなくてもわかるのかもしれないが、ここまでローカルな中継地となると自分で探すしかないだろう。


ヒバリシギ(幼鳥)
トウネンに似るが、脚の色や頭頂部の色、背中の白線等で見分けられる。内陸の、草の生えた湿地に多く、開けた場所にはあまりいない。
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 もしかしたら、このような内陸部の上空も彼らの渡りルートの一つとなっていて、水路はその下に都合よくあったのかもしれない。十勝地方の内陸部だと、そのままオホーツク海に抜ける、または北海道の中央部を通って道北からサハリン方面へ渡るには、確かに近道になるかもしれない。そういえば、大雪山の森林限界より上の湿原でタカブシギを見たという話を聞いたことがある。とすると、この水路は小さいながらも彼らが長旅の途上で羽を休め、エネルギーを補給する、いわば国際空港の役割を果たしているといえるだろう。
 危険な海や山を越えた飛行の末、疲れ果てて降り立った彼らに休息と食料を提供できる国際空港が、いつまでも健在であることを願わずにはいられない。


ヒバリシギ(左)とタカブシギ
彼らを保護するためには、干潟や海岸だけでなく、内陸の湿地も保全する必要がある。
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(2007年8月22日   千嶋 淳)


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