鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

オホーツクの秋風(9月8日)

2008-09-14 23:24:18 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
Photo
All Photos by Chishima,J.
サンゴソウ(アッケシソウ)群落中のエリマキシギ・幼鳥 2008年9月 北海道網走市)


 網走での仕事は思いの外盛り沢山で、滞在中に鳥見の時間を作ることは叶わなかったが、最終日は少し早い時間に切り上げて郊外を目指した。狙いは今を盛りと色付いたサンゴソウ(アッケシソウ)の群落とその塩性湿地で羽を休めるシギ・チドリたちである。程無く到着した有名な群落は、平日の午後にも関わらず、かなりの数の観光客で賑わっていた。殆どが大型バスからの客なので団体行動で喧しく、それに追い打ちをかけるのがエンドレスに流れる「ご当地ソング」。その曲自体は嫌いではないのだが、今ここで聞きたくはない。そんな喧騒の中だから、鳥もハクセキレイくらいしか見当たらない。

サンゴソウ(アッケシソウ)の群落
2008年9月 北海道網走市
塩性湿地に生えるアカザ科の植物で、秋に色付くのは葉の部分。
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 絵に書いたような日本の観光地の姿に聊か幻滅し、少しばかり場所を移した。同じ湿地の別の場所だが、こちらは訪れる人も無く、車を止めて窓を開けると沖合からの心地良い涼風が潮騒やカモメの鳴き声を運んで来る。大声での会話やステレオタイプな音楽よりも、この場に相応しいBGMはちゃんと存在するのだ。
 目が慣れてくると、近くのサンゴソウ群落の中で餌を漁る10羽ほどのトウネンの姿が見えてきた。シギの中の最普通種でも、ピンク色の絨毯の中で見るとまた違った感じで新鮮に感じる。湿地の先に広がる湖面に群がるウミネコの周辺には、数はまだ少ないもののユリカモメの姿もある。その先の上空を両脚にしっかりと魚を掴んだミサゴが横切り、奥ではまた別のミサゴが停空飛翔(ホバリング)しながら水中に魚影を探している。


サンゴソウ(アッケシソウ)の背後に(トウネン・幼鳥)
2008年9月 北海道網走市
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ミサゴのホバリング
2007年10月 北海道中川郡豊頃町
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 「カハハン、ガハハン」。弱々しいが雁の声を聞いた気がした。声のする方に必死に目を凝らせば、かなり遠方を飛んで行く2羽のヒシクイ。今年もまた渡って来た。シーズン初めてのガンを迎える感慨は、他の渡り鳥では味わえない一種独特の感情であると言って良い。
 ふと生き物の気配を感じて双眼鏡から目を離す。すぐ目の前のサンゴソウ群落から、エリマキシギの幼鳥が長い首を伸ばしている。人の気配は感じているようで若干警戒気味だったが、魅力的な餌場なのかじきに警戒を解いて採餌に興じ出し、どんどん近付いて来て、最終的にはカメラのファインダーに収まらないくらいになってしまった。


エリマキシギ・幼鳥
2008年9月 北海道網走市
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 再び雁の声を聞いた気がした。しかし姿は見えないし、あまりにも幽かだった。先刻聞いた音が、瞼裏の残像の如く脳内で再生されているのか。意識を再びエリマキシギに集中させ始めた私の耳に、前よりもはっきりとヒシクイの声が飛び込んできた。しかも1羽や2羽の声ではない。群れだ!
 声は湿地先の湖面の、その遥か沖から聞こえてくる。程無くして120羽前後の群れがこちらに飛んで来るのを発見した。どうやら飛翔コースから察するにオホーツク海から陸地に入ったばかりのようだ。もしかしたら今まさに海を越えて来た群れなのかもしれない。数分後、頭上に到達した群れは進路を変更し、海岸線と平行に飛び、やがて彼方の空に溶けて行った。オホーツク海沿いに幾つもある湖沼のどれかで、渡りの疲れを癒そうというのだろうか。


海上を飛んで来た(?)ヒシクイの群れ
2008年9月 北海道網走市
最上部には少数のカモ類が混じっている。
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 余韻に浸りきっている頭上を、今度はオナガガモの小群が通過した。まだまだ日差しは強く気温も高いが、自然界では確実に次の季節が主役になりつつある。
 帰路、午後6時過ぎだというのにすっかり暗くなった十勝の田舎道を、ドロノキだろうか、落葉が何枚もはらはらと舞っていたのが印象的であった。


ヒシクイ(亜種オオヒシクイ)の飛翔
2008年9月 北海道十勝郡浦幌町
これは記事の翌日に十勝で撮影したもの。
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(2008年9月14日  窓の外に十五夜の月を眺めながら 千嶋 淳)


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