鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

コウミスズメ

2012-04-05 02:12:57 | 海鳥
Photo
All Photos by Chishima,J.
(以下種はすべて コウミスズメ 2009年1月 北海道目梨郡羅臼町)


(2012年2月6日釧路新聞掲載 「道東の鳥たち35 コウミスズメ」より転載 写真・解説を追加)


 冬の北の海は、季節風や発達した低気圧の影響を受けて荒れる日が多くなります。数日から一週間、時化が続くことも珍しくありません。その厳しい海で逞しく暮らす、スズメと同サイズの海鳥がコウミスズメです。全長15cm。スズメが14cmですから、スズメ大というのは決して誇張ではありません。体重は80~90gとウミスズメ科ではもちろん、海鳥の中でも世界最小の種です。嘴や尾の短い全体的に丸っこい体型で、冬羽では顔、背など上面は黒く、喉から胸、腹にかけては白色、近距離であれば虹彩や肩羽の白も特徴となります。小さいので海上では波に隠れることも多く、海面すれすれを、時に風に煽られて傾きながらも力強く飛ぶ姿をよく目にします。

2012年3月 北海道十勝郡浦幌町
波間を縫って飛ぶ。胸から脇にかけて夏羽が現れ始めている。
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 日本へは冬鳥として北海道から本州北部の海上に渡来する、本種の繁殖地はベーリング海やアリューシャン列島など北極圏に近い島々です。千島列島では中部で繁殖可能性があるものの、巣や卵は未発見です。集団で繁殖し、中でもオホーツク海北部のヤムスキー島は、600万羽以上が集まる世界最大のコロニー(集団繁殖地)です。総数はおそらく1000万羽を下らず、ウミスズメ科では最も個体数の多い鳥と考えられています。「最小」のウミスズメ類は、「最多」の鳥でもあったのです。


2012年2月 北海道苫小牧沖
海上を泳ぐ冬羽。肩羽の白いラインが顕著。
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 それだけ数の多い鳥にも関わらず日本では馴染みが薄く、一般の人はもちろんバードウオッチャーでも本種を見たことない人は大勢います。ネット上には「国内では観察困難」との表現まで見られます。実際には冬の北海道近海では普通なのですが、知名度の低さは本種の冬の分布と関わる、二つの特徴に起因すると思われます。一つは外洋性の強さです。繁殖期にはコロニー周辺の沿岸で採餌しますが、非繁殖期は主に沖合で過ごし、海岸や漁港で観察される機会は多くありません。十勝沖での船による調査では、ウミスズメやケイマフリは港から近い沿岸域でも出現するのに対し、本種は水深50~100mより沖合で多く観察されます。もう一つの特徴は海氷と一緒に移動する習性です。ウミスズメや海ガモ類など北海道で越冬する海鳥の多くは10~11月に渡来しますが、本種は同時期には非常に少なく、年明け前後から増え始め、2~3月に最多となります。これはオホーツク海の流氷が最も南下し、年によっては太平洋へも流入する時期と一致します。以前、2月下旬に襟裳岬で5000羽以上を陸から観察した時は、沖に大きな流氷帯がありました。逆に流氷勢力の弱い年には少ないようです。流氷辺縁部への集結は、ベーリング海でも春先に知られています。本種はカイアシ類(主に浮遊生活を送る体長数mm以下の微小甲殻類)をはじめとしたプランクトン食性であり、冬の沖合や氷縁にはそれらが豊富なのかもしれませんが、詳しくはわかっていません。いずれにしても冬遅く沖合に渡来してあまり南下しない習性が、その数の割に神秘的な存在にしています。


以下2点とも 2012年2月 北海道厚岸郡浜中町

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 陸からは観察機会の少ない鳥ですが、嵐の後に住宅地や内陸部で保護されることがあります。強い風や雪に巻き込まれて陸上へ運ばれるのでしょう。中には怪我や衰弱で死んでしまう個体もあり、釧路市立博物館にも数点の標本が収蔵されています。


2012年3月 北海道十勝郡浦幌町
海上からの飛び立ち。小さいながら寸胴な体型が特徴的。
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(2012年1月27日   千嶋 淳)


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