All Photos by Chishima,J.
(海岸を群れ飛ぶミツユビカモメ 2008年10月 北海道中川郡豊頃町)
根室や釧路地方のような大規模な集団繁殖地を有さない十勝では、5月中旬に渡去前の終結が解散すると、日常的に見られるカモメ類はオオセグロカモメの非繁殖鳥(若鳥が大半)ばかりと寂しい日が続く。その状況が変化するのは6月末から7月初め。ウミネコの姿が日増しに多くなり、今年生まれの幼鳥も加わる。道東のコロニーではこの時期まだ巣立っていないため、どこか他の、それも繁殖ステージの早い南から漂行して来るのかもしれない。8月に入ると渡りの走りなのか、どこかで慎ましく越夏していたのかユリカモメやワシカモメを見ることがあるが、大抵は1羽である。
オオセグロカモメ(第1回夏羽の若鳥)
2008年7月 北海道中川郡豊頃町
ウミネコ
2008年7月 北海道中川郡豊頃町
手前から成鳥夏羽、幼鳥、第2回夏羽。
9月。ヒシクイ初飛来を待ち侘びる上旬、オオセグロカモメとウミネコの濃灰色ばかりだった海岸に、背の色の薄いセグロカモメが混じり始める。セグロカモメは瞬く間に数を増し、9月下旬から10月上旬にかけてピークを迎える。この時期十勝中部の砂浜は、所々数十~百、時に数千の彼らの群れで埋め尽くされる。不思議なことに彼らは砂浜で特に何かをするわけではなく、日がな一日波打ち際近くに立っている。 また、渡来当初は成鳥ばかりの群れに、日を追うごとに少数の幼鳥が見られるようになるものの、その数は至って少ない。成鳥と幼鳥で渡りコースが違うのか、幼鳥はまっすぐ越冬地を目指すのかわからないが、遅い時期に幼鳥の大群が入ることは無い。
セグロカモメ(成鳥)
2008年10月 北海道十勝郡浦幌町
大群乱舞(セグロカモメほか)
2008年9月 北海道十勝郡浦幌町
漁港に隣接した砂浜の大群を飛び立たせたのは、オジロワシかはたまたサケ釣りの人か…?
このセグロカモメの群れの中に、数羽から多い時で10羽以上、脚の黄色い個体が混在する。それらの脚の色は、セグロカモメの肉色に若干の黄色みを帯びた程度から鮮黄色まで、また背の色もセグロカモメと同程度に薄いものからオオセグロカモメ並みに濃色のものまで変化に富む。彼らの正体は不明だが、独立した一つの種とみなすには形質のばらつきが大きすぎる気がする。
黄色い脚(大型白頭カモメ・成鳥)
2008年9月 北海道十勝郡浦幌町
この個体は上面の灰色は周囲のセグロより少しだけ濃く、脚は鮮黄色。
9月の海岸はセグロカモメ、オオセグロカモメ、ウミネコの優占する状態が続くが、朝夕の空気が冷たく感じられる20日頃から、カモメやシロカモメもやって来る。また、ミツユビカモメが岸近くで観察できることが多くなり、時にはそれを襲撃するトウゾクカモメ類も姿を現す。
10月中旬を過ぎるとセグロカモメとウミネコは目に見えて減少し、代わってカモメが優占種となってくる。海況等によってはミツユビカモメの大群が海岸や河口に入るのもこの時期である。ただし、外洋性の本種は遊動性が高く、大群が降りた海岸に翌日行ってみてもほとんど見られないこともある。
カモメ
2008年10月 北海道中川郡豊頃町
中央が第2回冬羽で、他は成鳥。
ミツユビカモメ(成鳥冬羽)
2008年10月 北海道中川郡豊頃町
アジサシ類のような横に細長い体と短い脚が印象的。
トウゾクカモメ(夏羽)
2008年8月 北海道目梨郡羅臼町
今までは海岸や河口、海跡湖の状況だが、秋の十勝では、海から40km以上離れた十勝川の中流域までカモメ類が飛来する。それはこの時期サケが遡上するためで、河原や浅瀬で朽ち果てた死体を突いている姿を見ることができる。8~9月は大部分がオオセグロカモメであるが、10月以降はカモメやユリカモメも現れる。これら小・中型のカモメはサケの死体だけではなく、サケが浅瀬に産み付ける卵も狙う。10月末以降はシロカモメも飛来するが、その数は非常に少ない。ウミネコは稀に山間部のダム湖等にも出現することがあるが、秋の十勝川中流域では観察したことが無い。食性や行動パターンが異なるのだろうか。内陸部へのカモメ類の飛来は、近年の千代田新水路の建設後、種・数とも顕著に増加した(中流域でのサケやその卵の捕食については、「命を潤す屍」、「イクラ大人気」の記事も参照)。
サケの屍を前に(オオセグロカモメ・成鳥冬羽)
2007年11月 北海道中川郡幕別町
浅瀬に集まったユリカモメ
2008年10月 北海道中川郡幕別町
北からの冷風が頬を切る11月の海岸はオオセグロカモメとカモメが主体で、冬の気配とともにシロカモメも多くなってくる。これら3種は晩秋から初冬にかけて十勝川を河口から数~10km程度遡上するが、それが何らかの魚種の移動と関連があるのかは不明である。セグロカモメ、ウミネコ、ユリカモメ、ミツユビカモメは厳冬期には殆どあるいはまったく見られない。ワシカモメは十勝南部の岩礁海岸と周辺の漁港では初冬以降数を増すが、他の場所では少ない。サケの遡上を追って内陸部まで飛来していたカモメ類は、遡上期が終わり、残された死体も凍結や水面の結氷で利用困難になるにつれ姿を消し、ハクチョウやカモ類の餌付け地に時折1~数羽が出現するだけとなる。
内陸に飛来したシロカモメ・成鳥冬羽
2007年10月 北海道中川郡幕別町
ミツユビカモメ(冬羽)の飛翔
2008年10月 北海道中川郡豊頃町
(2008年11月10日 千嶋 淳)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます