tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

東京電力の経営数字  総資本回転率

2011年04月20日 18時10分49秒 | 経営
東京電力の経営数字 -2 
 前回は東京電力の自己資本比率についてみました。超優良企業としては大変低い数字でしたが、その低さの原因はどこにあるのでしょうか。それは総資本回転率 を見れば解ります。

 総資本回転率(売上高/総資本)は資本が効率的に活用されているかを示す数字で、東京電力の平成21年度の決算では、0.38回です。
 これは用地や発送電設備など巨大な設備をしながら、売上高は少ないことを示しているわけで、製造業の主要企業の1.0回前後、巨大な設備をしている鉄鋼や化学の0.7回強(財務省「法人企業統計」21年度)に比べても異常に低い回転率です。

 関連する指標で、設備生産性があります。100円の固定資産が年間いくらの付加価値を生むかという数字ですが。東京電力の場合は16パーセント、つまり16円です。
 製造業は平均的に70~80パーセント、70~80円の付加価値を生みますから、電力の場合高額な設備投資の割に付加価値生産の効率も低いことになります。

 つまり、発電・送電という仕事は、巨大な資本をつぎ込みながら、他産業に比べて大変効率が悪い仕事だということになりますが、これがなければ、経済も社会も進歩できず、誰かがやらなければならないとなれば、電力会社が国策に沿ってやるしかないということになるのでしょう。
 儲からないから自己資本は溜まりません。しかしやらなければならない、結局国の信用に頼って借金でやることになります。自己資本比率は高くなりません。

 皆様ご承知のように、こうした中でも「原子力発電」の電気は「安い」のです。つまり原子力発電は火力や水力より資本効率が良い、もちろん太陽光や風力などより(現状では)格段にコストが安いからこその原発志向でしょう。

 経営数字から見れば、原発の比率を高めるほど、資本の効率は高まり、電気のコストは下がり会社の収益性も健全性も高まります。しかしこれは、原発が安全であってのことのようです。
 ところが現に事故が起こってしまいました。東京電力の準備金も引当金も全く足りません。

 原発の設計段階で、何処までの安全を見るかの論議があり、外部電源、バックアップの電源や配線など、何処までも安全にやろうとしたらコストがいくらかかるかわからないということで今回の仕様の建設が進められたという解説報道もありました。

 今回の事故から学び、原発の安全性を高められる可能性はかなり高くなったと思います。しかし、設備の安全性を高めれば高めるほど、総資本回転率も、設備生産性も低くなり、原子力発電のコストは上がるでしょう。
 
 とはいえ、一旦事故が起きれば、民間の一企業が負担できるようなコストではありません。「転ばぬ先の杖」で事故が防げるのか、杖の値段が高価すぎて、原発の優位性がなくなるのか、感情論でない、冷静な論議が必要なようです。