tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日本型賃金制度をどう裁く

2016年05月14日 10時52分44秒 | 労働
日本型賃金制度をどう裁く
 定年再雇用の従業員について、身分を変更し賃金も引き下げるという日本の賃金制度の慣行に対して「法律に違反しますよ」という判決が東京地裁で昨日出たとのことです。

 私自身、報道記事しか見ていませんし、法律解釈の専門家でもありません。ですから法律論を述べる気はありませんし、最近、洋の東西を問わず、社会の要職にある人が、「法律に違反することはしていません」というのを聞くたびに「世も末」と感じる人間です。

 定年後再雇用の時の賃金をどうするかという問題には長い歴史があります。もともと日本の賃金制度の基本は年功賃金です。
 戦後これを欧米流の職務給にしようという意見も努力もありました、しかしこれは日本人のメンタリティーに合わなかったのでしょう、いまだに年功を内包する職能資格給どまりです。

 一方日本人の平均余命は世界トップのペースで伸び、定年は55差から60歳へさらに65再雇用義務(本人が希望すれば)という具合に働く年齢は伸びています。
 もともとILO統計でも日本の高齢者の就業率は世界最高レベルで、それも働く理由は「おカネより生き甲斐」と説明されてきました。

 年功賃金というのは、初任給は「働きより低く」、「定年時は「働きより高い」という「先憂後楽」の思想で成り立っていました。生涯賃金でバランスするのです。
 この構造が55歳定年でバランスが取れていたのですが、その後も雇用し続けると「働きより高い」賃金で雇用を続けることになり、それは不合理ということになりました。

 ですから、定年延長、雇用延長の際には、賃金は「現実の働き程度に引き下げる」ということで、労使も専門家も世論も法解釈も一様に認めてきたというのが現実の動きです。
 いわば、定年までは企業内賃金制度、定年後は市場賃金(職務給)という組み合わせで高齢化社会を乗り切ろうという合わせ技なのです。

 そして、この制度は、社会的にも、家族の生計費構造からみても結構説得性も納得性もあるので、スムーズに受け入れられてきていたようです。
 それだけに今回の東京地裁の判決は、受け取り方によっては、平地に乱を起こすようなことにならないかと心配しています。
同一労働・同一賃金考」もご参照頂ければ幸甚です。