tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

同一労働・同一賃金考

2016年03月09日 09時25分58秒 | 労働
同一労働・同一賃金考
 最近また「同一労働・同一賃金」が言われるようになりました。今度は法制化にも絡むようです。本質の理解のないやり取りで、誤った結論など出さないように願いたいものです。

 今言われる同一労働・同一賃金は、いわば「形式均衡論」のようなもので、本質的調和の視点がないので、納得性のある導入は困難です。そこには2つの問題があります。
 1つは、同一労働(同一価値労働)かどうかの判定が困難過ぎることです。
 もう1つは、2倍の価値の労働をしたとき、賃金は2倍払うのが良いのかという問題です。

 今、問題になっているのは、主として正規と非正規の格差の問題です。かつての論議は年功賃金における年齢格差が主要な問題でした。
 隣同士で同じ仕事をしていても、非正規は賃金が低い、しかし、本当に同じ(価値の)仕事をしているのかどうか、また年功賃金の場合は1年先に入っているから賃金が高い、しかし本当に1年分良い仕事をしているのか、正確に判断出来るものではありません。

 実際には正規が隣の非正規の面倒を見ながら仕事をやっている場合もあるでしょうし、非正規だが実はベテランで正規より仕事ができる部分もあることもあるでしょう。
 同一労働・同一賃金は「中身より形」という暗黙の前提があって成り立つのです。

 2倍の価値の労働に2倍の賃金を払うのが適切かという問題は、生保のセールスな場合などは貫徹しています。同じセールスをやっても、家計を支えるのがやっとという人も、世界のミリオネアクラブに入る人もいます。まさに労働の成果次第(成果型)です。しかしこれが一般社員に適用されることはありません。(注記次回)

 アメリカでは一般社員とトップの報酬の差は巨大ですが、日本では、新入社員と社長の賃金は額面で、せいぜい10倍から20倍ぐらいが普通でしょう。
 日本では2倍働いて給料2割増し、3倍働いて3割増しなどと言われるように、企業内で納得ずくのシェアリング(分かち合い)が行われているようです。これが企業という人間集団の凝集力を支えているのでしょう。(前々回の貢献度より将来志向重視の思想)

 仕事の中身や成果と賃金の関係は、単純な部分均衡で考えるべきものではなく、人間集団の機能というトータルな問題の中で、多くの要素を最適に勘案し、「合理性」と「納得性」のバランスの中で考えるべきものなのでしょう。伝統的な日本の賃金制度は、生涯賃金では昇進も含めて均衡がとれているという見方もあります。

 正規と非正規の賃金格差問題は、賃金の額を合わせるという小手先の手段で対応するのではなく、企業という人間集団の中で、いかなる雇用形態をとるかという、「人間」としての処遇の在り方として考えるべきものでしょう。
 望ましくは、希望者は全員正社員とし、「正社員の賃金制度に乗せる」ことが本当の格差是正で、非正規のままでの同一労働・同一賃金は、本質を見ずに形だけを見る形式作業に過ぎません。

 戦後の日本の経営者は、身分差別を排し、全員を「社員」とする方針を選択しました。これが日本の戦後復興とその後の経済成長を支えた「企業文化」を生み、日本企業の優れたチーム作り、人間集団の力の発揮につながったといえるでしょう。