tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

賃金か雇用か? 現時点の問題を考える

2013年11月25日 16時14分38秒 | 労働
賃金か雇用か? 現時点の問題を考える
 我が国の労使関係の中で「賃金か雇用か」という問題は、幾度となく論議されてきました。そしてそのたびごとの結論は「雇用が第一義」というものでした。

 この結論は矢張り正しかったのだろうと考えています。当時「戦後最大の不況」といわれた昭和40年不況でも、第一次オイルショックの後の世界中が苦しんだ不況の中でも、日本の労使は、雇用の安定が第一義という考え方では一致していました。

 第一次オイルショックの後の不況では、財政制度審議会(当時の会長は桜田武)が、雇用の安定の為ならばということで赤字国債の発行を容認しています。国自体も雇用確保の重要性を認識していました。

 日本社会の安定した発展は、かなりの程度この「雇用重視」の国民的視点に支えられていたという気がしています。 
 結果ははっきりしていて、日本の失業率は常に先進国中最低で5パーセントを超えることはほとんどなく、容易に2ケタを記録 する欧米主要国とは格段の差があります。

 然し、いわゆる「失われた20年」の中で、日本の雇用の中身に変化が生じたことは皆様ご承知の通りです。
 具体的に言えば、非正規社員の増大です。GDPがピークの523兆円(1997年)から470兆円(2011年)に縮小するという異常な状態の中で、日本企業は、失業の増加という最悪の事態を避けるために、賃金の低い非正規雇用を多用して平均賃金を下げるという窮余の一策を取ったのです。そして今、日本社会はその後遺症に悩まされています。

 冒頭に掲げた「現時点の問題としての賃金か雇用か」はその意味で、非正規労働の増加を考えた場合、いかなる回答になるのかを考えようということです。
 有難いことに、政府日銀の協力で、20円幅の円安が実現し、日本経済は息を吹き返し、成長率がプラスに転換するシナリオが見えてきました。プラス成長の可能性を確実にするための条件として、「賃金と雇用」の問題をどう考えるべきか、いよいよ始まる2014年春闘の最重要課題でしょう。

 順を追って言えば、日本企業は日本経済が12パーセントも縮小し、賃金支払い原資も縮小する中で、雇用確保のためには賃金減額つまり「ベースダウン」をすべきところがやりきれず、非正規労働を増やして平均賃金を下げたというのが実態でしょう。

 元に戻すために先ず真剣に検討すべきは窮余の一策として歪めた雇用ポートフォリオの復元 、非正規の正規化を第一義とし、漸次「ベア」に進むべきではないでしょうか。
 連合の来春闘への要求ベースアップ1パーセントは、実現しつつある経済成長率に比してもかなりモデストな数字で、非正規の正規化の「含意」のあるものと受け止められるものと考えます。

 付け加えて言えば、正規社員化は「従業員の人材開発」と「雇用の安定 による生活と心の安定」の双方に大きく役立つはずです。教育訓練は日本経済の更なる発展と日本社会の劣化の歯止めに大きく貢献するでしょう。そして「働く者の生活と心の安定」は「安定した消費支出」の支えになって、日本経済の均衡発展に役立つと思われます。

 春闘でのきめの細かい労使の話し合い、それも、個々の企業の状態を適切に反映した個別企業労使の賢明な交渉を期待するものです。