最近、「夢の国」ことTDLやTDSのダンサーが話題になっている。しかも特定のショーステージに出演するダンサーさんのみ、と言ってもいいくらいピンポイントのようだ。
TDLの入口から入ってワールドバザールを抜けて左折して進むと、間もなくアドベンチャーランドに入る。すぐに見えてくるのが今で言う「シアターオーリンズ」というショーステージの会場だ。昔(2000年まで)は「アドベンチャーランドステージ」と呼ばれた所である。ここで開催されているショーは2024年2月現在で「ジャンボリミッキー!」だ。
この「ジャンボリミッキー!」に出演する男女各一人ずつのダンサーが人気のようである。元々のターゲットは幼い子どもたちだが、実際に集っている多くはダンサー目当ての大人が多いようだ。お母さん世代はお兄さんダンサー目当て、お父さん世代はお姉さんダンサー目当て、という具合である。最近だと特に 林祐衣さん という女性ダンサーがSNS上で話題になっているようだ。TDLのダンサーは本来全員が名前を出さない扱い(主役はミッキー等のキャラクターだから)であり、ここまでダンサーの名前が一般に知れ渡る現象はまさにネット社会故なのであろう。
筆者がTDLに行っていたのは30年以上前で、まだTDSが無かった時代(インターネットも無かった。せいぜいパソコン通信(*1)くらいで、携帯電話が普及し始めた頃)だが、それ以来はご無沙汰である。(*1a) だが、ダンサーのTDL内での扱いやシステムについては基本的には変わっていないであろうという前提で記してゆく。なお、当時から「ダンサーオタク」なゲスト(客)たちは一定数居た。結局魅力的な人(ダンサー)は多くの人々を引き寄せる力がある、ということであり、これは人間の本能的な機能故であろう。(*2)
当時も今の林祐衣さんのようにダンサーオタク界隈では顔も名前もよく知られたダンサーさんは複数居た。だが、当時は今のようなインターネットが無かったので、その情報が社会に広く知られる機会が無かったのである。
30年前、今のシアターオーリンズはアドベンチャーランドステージと呼ばれており、上演されていたショーは「アドベンチャーランドレビュー」である。ダンサーの人数も多かった。この「~レビュー」の時代は長かった。筆者が見ていた期間は、「レビュー」に始まり、それが終了した後に上演された「セバスチャンのカリビアンカーニバル」迄である。
現在ではショーステージを鑑賞するにもスマホでいちいち予約を取らねばならず、しかもTDL側が座席を指定してしまうので自分が陣取りたい希望の場所が取れる訳ではない。しかし、「~レビュー」の当時は客席に関する規定はあまり無く、見たい人は開園時刻前に会場へ行って、開場したら客席に入って好きな場所に座る、というそれだけだったのである。なので、ビデオや写真を撮影したい人々は概ね好きな場所に陣取ることができたのだ。撮影となると、どうしても「この場所から撮りたい」「このアングルから撮りたい」、という希望が出てくるのは当然のことである。ダンサー中心に撮りたい人は最前列で撮影し、ショー全体を撮影したい場合は最後列の一段高い場所に腰掛けて撮る、という具合だった。
昔は年間パスポートも今ほど高価ではなかったので、頻繁に「インパーク」、つまりTDLに行く(入る)人は皆、年パスを持っており、それで足繁くショーステージに通ったものである。だいたいダンサーオタクな人は、いわゆるアトラクション等への関心は低く、パーク内にあるいくつかのショーステージやパレード(昼のデイパレード(Dパレ)と夜のEパレ)を連続的に鑑賞し、それで満足して帰途につく…概ねそんな感じだったのではなかろうか。
余談だが、筆者は音楽に関心が強いので、パークのショーを鑑賞して最初に感心したのは音楽のレベルの高さである。例えば、ショーベース2000(トゥモローランド)で上演されていた「ワンマンズドリーム」のオーケストラのアレンジやサウンドは、どこか日本人離れした洗練さが感じられ、最初に聴いた時には感激したものだ。調べてみると、当時のTDLの音楽監督は 新井”チャンピオン”英治氏(チャンピオンはニックネーム) である。彼はジャズのトロンボーン奏者で作曲・編曲もこなす。スタジオミュージシャンとしても有名な人である。それでTDLのショー音楽のレベルの高さに納得がいったものである。
ダンサーの話に戻る。
そもそもTDLダンサーと言ってもカテゴリーがある。現在はどうか知らないが、30年ほど前は最も上位に位置するダンサーはSED(エス・イー・ディー)と呼ばれていた。Special Event Dancer(スペシャル・イベント・ダンサー)」という位置づけである。白雪姫やシンデレラ等を演じる外国人ダンサーもこれに含まれる。それに加えて特にパフォーマンスに優れた日本人ダンサーが数名居た。中央の円形部分をプラザと呼ぶが、そこから東側(キャッスルに向かって左)にちょこっと入った場所に小さなステージがあり、毎晩20時過ぎにジャズのビッグバンド演奏(スイングジャズ)とダンサーの舞踊が鑑賞できたのだが、ここで踊るダンサーがSEDの日本人メンバーだった。ちなみにパーク名物である花火はこのジャズ演奏+舞踊が終わった直後からライトショー(当時は「スターライトファンタジー」と称するショー)がスタートして、やがて花火が上がる…そんな時間設定になっていた。
SEDはもう一つ担当部署がある。上述のショーベース2000で上演されていた「ワンマンズ・ドリーム」である。ここでも多数のダンサーが出演するが、メインで登場するのがSEDであった。もちろんパレードにも出演する。
ショーステージはいくつかあり、上述のウェスタンランドのステージ以外にもファンタジーランドステージでは「イッツ・ア・ミュージカル・ワールド」という各国のミュージカルやダンスを集めてお見せするエンターテインメントがあったし、ウェスタンランドにはビッグサンダーマウンテンの横でマークトウェイン号が浮かぶ大きな川のそばでもあった場所にラッキーナゲットカフェというウェスタン風のカフェがあり、そこのステージでは「ラッキーナゲット・ホーダウン」だったと思うが、西部劇的なモチーフをベースにしたダンスショーが上演されていたように記憶している。また、アドベンチャーランドに近い場所には「ダイヤモンドホースシューレビュー」というアメリカ西部の昔を感じさせるショーもあった。このステージ会場では確か飲食もできたと記憶している。建屋自体が昔の西部劇に出てくるようなデザインだった。このステージで昼間にやっていたショーは名称は忘れたが、ボードビリアンのような専任の人がメインのコメディ的なショーであった。ダンサーも出ていたと思う。
この他にもクリスマス等の季節や節目の時(年に2~3回ほど)に、シンデレラ城前に特設ステージを組んで行う大規模なショー(「キャッスル・ショー」と呼ばれていた)があり、そこにSEDをはじめ、多数のダンサーが出演していた。
各ショーステージに出演するダンサーはDパレ(デイパレード / 昼のパレード)にも出演する。これらのシフトは様々で、ステージに出演しているその日のパレード兼任の場合もあれば、パレードに出演する日はステージは休みとなるなど、各種のシフトが存在する。だから、ショーステージで馴染みになったダンサーをパレードの中に発見する場合も多々あるのである。
ディズニーダンサーのヒエラルキーで最も下に位置するのがパレードにのみ出演するパレードダンサーである。これは特定のショーステージ等には出演せず、パレードのみを担当する。
また、ステージ以外でもパーク内の色々な場所に突如出現してゲスト(客)と同じ場所でパフォーマンスするグループもいくつかあった。大体は吹奏楽のバンド+ダンサーの組み合わせであり、ウェスタンランド、トゥモローランドなどでよく見られた。ダンサーが伴わない「サックス5」というビッグバンドのサックスセクションだけ抜き出してきたような5人組のグループもあった。ファンタジーランドでは贅沢なことに日本ジャズ界の至宝である外山喜雄氏のディキシーランドセインツが演奏(TDLでの名称はパーリーバンド)していた。外山喜雄氏は日本のサッチモ(ルイ・アームストロング)とも呼ばれる有名なトランペット奏者でありヴォーカリスト(サッチモそっくりに歌える)でもある。
一般にTDLで踊っていたダンサー達はオリエンタルランドのエンターテインメント部所属だが、大元は東宝芸能(株)のようであった。東宝芸能から派遣で来ていたようなイメージだろうか。東宝芸能からは多摩市にあるサンリオピューロランドにもダンサーを出しているので、TDLを辞めたダンサーが、その後ピューロランドのショーやパレードで踊っていた、などということもある。ピューロランドのパレードを見ていて、「なんか見覚えのあるダンサーだな」と思ったら、元TDLに居たダンサーで、お互い(筆者とダンサー)に「え?あれ?あーっ!」という表情になったこともあった。
TDLのショーに出演するダンサーはTDLでは無名の存在として登場する。主役はミッキー等のキャラクター達だからであろうし、そういう契約になっているものと思われる。現在「ジャンボリミッキー!」で人気の林祐衣さんも自己の経歴を紹介する際にはTDLの仕事(「ジャンボリミッキー!」等)は一切言わないし記していない。(*3)
また、これは若干センシティブな内容になるが、30年前の当時、TDLダンサーは一般的なダンサーに比較してダンサーとしての評価があまり高くなかったので、その意味でもTDLダンサーであることを積極的に言わないダンサーが多かったのも事実である。これはもちろん総合的に見た時の平均しての話であり、中には高い技術とセンスを持つ優れたダンサーも居た。「ジャンボリミッキー!」の林祐衣さんも高く評価される1人であろう。林さんばかり名前を挙げているが、「ジャンボリミッキー!」を担当するダンサーは数名おり、ローテーションでシフトが組まれている。林さんだけでなく、他のダンサーさんも技術が高い人が多いようだ。いわゆる「キレッキレ」のダンス(*4)が出来て、素人目にも「上手い」「凄い」と感じさせる人、である。
TDLダンサーは無名で出演、と書いたが、名前が判ればオリエンタルランドのエンターテインメント部経由で手紙や物品(ビデオテープ等)の送付はできるようになっていた。少なくとも初期の頃(30年前)はそうだった。このあたりが現在はどうなっているかは筆者は把握していない。(当時のエンターテインメント部の担当者さんには大変お世話になった。改めて感謝・御礼申し上げたい)
また、上述のジャズのビッグバンドも同じ東宝芸能所属だと推測される。パークのビッグバンドで演奏していたプレイヤーが日比谷の宝塚劇場(東宝直営)の専属オーケストラの中で演奏しているのを発見したこともある。
ダンサー達もまた休日にはゲストとしてインパークする場合も多い。だから、パーク内でゲスト同士として鉢合わせする事もある。私服でくつろぐダンサー側の気分と時間が許せばお茶しながらの会話などという事も不可能ではない。普段はステージ上の存在であるダンサーから色々な話が聞けるのも楽しいレア体験になるであろう。
ダンサーのことばかり書いているが、ディズニーのキャラクターファンも少なからず居た。例えば、知り合いにグーフィーの熱烈なファンという女性が居たのだが、グーフィーを担当するエンターテイナー(グーフィーの衣装・被り物を着用してグーフィーらしく振る舞うパフォーマー)は数名(いずれも長身だった)居て、グーフィーとしての動き方を見るだけで「誰が着ぐるみの中に入っているかが分かった」、というから凄いものである。同じキャラクターの同じ動きを演じても、そこに個性が出てしまうのであり、それが見分けられるのは凄いことだ。
もっと面白いのは、キャラクター担当のエンターテイナーは普段の生活で外を歩いている時には当然素顔で歩いているので、その人がキャラクター担当であることはバレる筈はない。だがしかし、普通に外を歩行している時やバスに乗っている時など、日常のちょっとした振る舞い一つで、その人がキャラクター・パフォーマーであり、何のキャラクター担当なのかまで分かるそうだ。例えば、ミッキーマウスを担当するエンターテイナーは日常生活の中でも、ちょっと驚くようなことや嬉しいことがあった場合、パーの形にした手を口に当てて、まるでミッキーが「ハハッ」とおどけるような動きを(つい)してしまうのである。これは無意識に出てしまう動きであり、それだけその人がミッキーになりきって頑張っている演じている証左と言えよう。このような具合に各キャラクター毎の個性的な動きというものがあるので、そのアクションを見るだけで分かる人には分かる、ということらしい。
・・・等々、思いつくままに記してきた。ダンサーの雇用やシフトに関するシステムやルールが現在も同じかどうかは不明だが、ミッキー等のキャラクターだけでなく、ダンサーに注目してショーを鑑賞するのもTDL・TDSの楽しみ方の一つと言えよう。あのパークには色々な切り口・視点で楽しむ方法があるのだ。
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(*1)
特定の会社のサーバーに固定電話回線を利用して接続することで各種の情報を得たり、会員同士のコミュニケーションがはかれるクローズドなサービスである。ニフティサーブなどが有名だった。インターネットの規模とは雲泥の差がある。ちなみにWindows95を発売した時のマイクロソフトもMSN(マイクロソフトネットワーク)というパソコン通信をやっていた。ビル・ゲイツがインターネットの重要性に気づくのはもう少し後の話である。
(*1a)
余談だが、TDL5周年時代の年間パスポートの価格は25,000円だった。翌6周年でも27,000円である。
(*2)
かつて「会いに行けるアイドル」として売り出したAKB48(2005年~)だが、TDLのダンサーはそれよりもずっと早くから「会いに行けるアイドル」だったのである。
(*3)
林祐衣さんは2024年4月から鹿児島の女子ソフトボールチームであるMORI ALL WAVE KANOYA のスペシャルサポーターに就任する、と本人が発表しており、4月7日からスタートするTV番組でもメインダンサーとして出演するそうである。そう考えると、TDL「ジャンボリ~」の出演は3月迄、ということになるのかもしれない。これは筆者の推察だが、およそ真剣に舞踊を目指す人なら終着点はディズニーではないだろう。TDLのステージに出演していたのは一時的なものだったのであろう、と思われる。
また、本当に3月で「ジャンボリ~」出演が終了なら、最終日にはダンサー仲間が大勢ショーを見に来る(客席にやってくる)筈である。それもまた一つの目安となるだろう。
(*4)
「キレッキレ」だけでも実は良くないのだ。それに加えて表現としてのしなやかさ等々の美的要素が無いとダンサーとして「上手い」とはならない。正直な話、「キレッキレ」だけのダンサーの踊りは見ていて痛々しい印象があった。
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<2024年8月16日:追記>
林祐衣さんは2024年度も「ジャンボリ~」に出演し続けているようである。東京と鹿児島の頻繁な往復で大変であろうが、頑張って頂きたいものである。
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