乃木坂46・5期生に一ノ瀬美空という「特異な」キャラクターが居る。わざわざ「特異」という言葉を使う意味を説明する。ビジュアルは美少女である。紛れもない美少女。ある種、完成された美少女だ。しかも福岡産である。(笑)
この子を初めて見た時に惹きつけられたポイントは目である。笑った時の目の形が「円弧」になるのだ。三日月を横倒しにしたような形だ。この形が漫画家・吾妻ひでおが描いた美少女がナンセンスギャグのシーンで見せる笑顔の時の「目」にそっくり同じなのだ。筆者はこれを見て内心ひっくり返った。
乃木坂の5期生が加入したての頃、運動能力テストという企画が冠番組で実施された。その時に、5期生メンバーは皆、名前が書かれたビブスを着用していたのだが、一ノ瀬美空は前後ろを逆に着用してしまったのだった。メンバーの井上和に「ビブスが逆だよ」と指摘された時のバツの悪さと恥ずかしさを湛えた笑顔。その時の目の形がまさに円弧型だったのであり、それは同時に吾妻ひでおが描く美少女キャラクターが同じようなシチュエーションで見せる笑顔と同じだった…事を思い出させるものでもあった。それ以後、一ノ瀬美空の笑顔、それも満面の笑みになるほど吾妻ひでおキャラに似てくる(ほとんど寄せている、と言えるほど)印象を否定出来なかった。
一ノ瀬美空と吾妻ひでおの「特異」に相当する相似性はこれだけではない。
上述したのは外見上の相似性だが、次は内面の相似性だ。
世間では常識から逸脱した発想・思考・行動、しかもそれが人間同士の関係性の中で起きた場合、しばしば「変態」という言葉をあてがうケースがある。吾妻ひでおの漫画作品はナンセンスギャグが多く、その中に美少女を美しく配置し、しばしば「変態」に相当する倒錯の世界を描いて、ある種の人間の内面性をビジュアルとして我々に提示してくれるものであった。「変態」と言っても単にエログロの世界を描くそれではなく、一種のスペキュレイティブ性を兼ね備えた広義のSF作品と呼べる世界でもある。事実、吾妻ひでおは、自身の体験をSFに昇華させた「不条理日記」で星雲賞やその他の賞を受賞している。
吾妻作品に登場する美少女は単なる性的対象としての存在ではなく、そのSF的ナンセンス空間の進行役であったりヒロインであったり、巻き込まれて大変な目に遭う役回りだったりしてセクシュアリティーの追求とはひと味もふた味も違う存在意義があった。
乃木坂の一ノ瀬美空もまた同様の「特異」な魅力を持つ。基本的には常識を踏まえる社会人としての佇まいを持っているのだが、その一方で、彼女が居るフィールドが「表現」の場になった時、平易に言えば「ぶっとんだ」行動や言動を見せることがあり、それは「飛べない一般人」には到底理解できないものだったりするのである。一般人から見れば「変態」という言葉に収斂してしまうようなものかもしれないが、しかし一ノ瀬の発想は「一般」の領域を遥かに超えており、知らぬ間に「向こう側の世界」にワープしているかのようでもある。ある時は同じメンバーのお尻を触って5期生全員のお尻をコンプリートしたかと思えば、なんとコンサートの本番中に先輩メンバーのお尻をお願いして触らせてもらったかと思えば、卒業を間近に控えた1期生の齋藤飛鳥の脚にしがみついて「安心できます」と言ってみたり、という常人には発想し得ない発想と行動を突如として起こす。さらに、コントやスキット中の役の中で時おり見せる狂気を孕んだ目つきは一ノ瀬美空ならではの「凄み」を感じさせる。また、同期メンバーの小川彩を溺愛しており、小川がドン引きしているにも関わらず纏わりつく様が映像として放送された時に初めて自分の行動の「特異性」に気がついて「あたしってこんなに気持ち悪いんですね」と素直な感想を述べたのには笑えたものである。それらの奇抜な行動や発想は決して一ノ瀬美空が本当に「おかしな人」だからではなく、ちゃんと「常識」も「礼儀」も兼ね備えた立派な社会人としての一面がありつつのそれだから面白いのである。
そうしたある意味で「非常識」な発想や行動が吾妻ひでおが描く美少女キャラクター達の活躍を彷彿とさせるものがあり、それは限りなく(前述の通り)面白いのであり、意味が不明なのに楽しさと不思議な感情を視聴者側にもたらすところが相似性の最たる部分でもあり、それが笑顔の中にある「円弧型の目」で完結するところに、なんだかわからないが拍手したくなるのである。
この『「なんだかわからない」のだが、しかし「面白い」「楽しい」』というのは「SF作品」に対する最高の賛辞の一つであり、ある種の「凄み」を表すものでもある。
一ノ瀬美空の凄さは、自身の中にあるこうした「特異な何か」を包含しつつ、常識的な世界と折り合いをつけつつ(現役大学生でもある)渡り歩いているところにあるのかもしれない。ビジネス(仕事)上で求められるものは何でも器用にそつなくこなせる頭の良さ、勘の良さ…そして、同時に時おり見せる、時にアザトさをも含む特異で奇妙な魅力・・・全て計算され制御されているのだろう。筆者もまだ把握しきれていない、この一ノ瀬美空という「特異」なキャラクターは継続的に見ていきたい、という思いを起こさせるに十分な魅力を持ったアイドルと言えよう。
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