いわゆるユーチューバーと呼ばれる人々による動画コンテンツがYouTube上に数多アップロードされている。彼らの動画には普通にBGMが付加されているケースが多いが、TV番組などのビジネスで制作されているケースとは異なり、著作権フリーの音楽素材が使われる事が多い。
そのような状況の中で、最近筆者が気になった曲がある。ヨハン・シュトラウス1世が作曲した「ラデツキー行進曲」であり、大変有名な曲である。これがユーチューバーが作る動画コンテンツのBGMとして採用されるケースが目立ってきたように思う。
そもそも、この「ラデツキー行進曲」だが、毎年1月1日にオーストリアはウィーン市にある ウィーン楽友協会大ホール にてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートで最後に必ず演奏される定番の曲目としてつとに名が知られている。このコンサートに於いては必ずアンコールとして3曲演奏されるのだが、2曲目は「美しく青きドナウ」であり、3曲目が「ラデツキー行進曲」である。この曲でニューイヤーコンサートは締めくくられるのだ。
「ラデツキー行進曲」の演奏が始まると、客席のオーディエンスも曲の特定の場所では手拍子を打ってオーケストラと一緒に盛り上がる…という慣習がある。下記の動画を参照されたい。
小澤征爾指揮・ウィーンフィルに依るニューイヤーコンサート(2002年)に於ける「ラデツキー行進曲」
『Radetzky March, Seiji Ozawa』
そして、この曲の著作権が既に切れている事から、電子楽器にデータを打ち込んで作られたフリーのBGM素材が出回っており、多くのユーチューバーのコンテンツに採用されているようだ。その実際の音を下記の動画で参照されたい。
『ラデツキー行進曲:ポケットサウンドフリーBGM素材』
この2つの「ラデツキー行進曲」を聴き比べてみて、音楽的センスのある方ならメロディーラインに決定的な差異がある事に気づかれたと思う。そこが冒頭で「気になった」と記した箇所である。フリー素材として出回る「ラデツキー行進曲」のメロディーは一部分に間違いがあり、動画のBGMとして聴こえてくるその間違いが気になってイライラするのである。(笑) (*1)
メロディーの一部が間違っている・・・どこが間違っているのか?
楽譜でご覧いただこう。(サムネイルをクリックすると大きな楽譜が表示されます)↓
曲の開始から4小節は前奏(イントロ)であり、その最後の1拍に食った形(アウフタクト(弱起))で主旋律が登場するのだが、問題はこの主旋律の中にある。
この曲のキーはニ長調(Dメージャー)である。赤い矢印で示した音はニ長調の第2音(E)に#(シャープ)が付いているのでEを半音上げた音(=F)となる。この赤い矢印が付けられた区間はニ長調の第3音(F#)と第2音が半音上げられた音(E#=F)が中心になっている。(*2)
問題はこの音である。
フリーBGM素材の方は赤い矢印で示した音を間違えている(*3)のであり、第2音に#が付けられていない、つまり半音上げられていないのである。従って普通にニ長調の第2音(E♮)そのまんまになっているのだ。上述のようにここの音程はE#(=F)でなければならない。ここをE♮で鳴らされてしまうと、なんとも気持ち悪いダサい旋律になってしまうのだ。
音楽に詳しくない方々の為にハ長調(Cメージャー)に転調して示すと下記の通りである。
本来は
「ミレ#ミ・ミレ#ミ・ミレ#ミ・レ・ド ミレ#ミ・ミレ#ミ・ミレ#ミ・ラ・ソ」
という具合に演奏される旋律なのだが、フリー素材の方は
「ミレミ・ミレミ・ミレミ・レ・ド ミレミ・ミレミ・ミレミ・ラ・ソ」
といった具合に、「レ」に「#」が付いていない。本当は「レ」が半音上がって「レ#」でなければならないのだが、ナチュラルのままなのである。
この半音差は大きい。たかが半音だが、音楽上はとても大きな差である。
恐らく電子楽器にデータを打ち込む人が「ラデツキー行進曲」をよく知らなかったが故に間違えたか、または間違った記譜の譜面を参考にしたか、或いは、打ち込み時に#を見落として間違って入力してしまったかのどれかであろう。逆にこれが正しいメロディーだと思って入力したのなら阿呆である。控え目に言って間抜けだ。この間違いをもしも演奏の現場でやらかしたらグーパンチされても文句は言えない…それほど酷い間違いなのである。
少なくとも音楽をやっている人ならば、原曲を知らなくても、何となく「ここは半音上がった音だよな」と気づく筈なのである。それが音楽に携わる人が持っているべき基本的なセンスなのだ。
----------------------------------
(*1)
例えば「はすきぃと嫁ぴぃ」などの動画でこの曲が多用されているが、間違った音を含むメロディーが鳴るので動画それ自体が楽しめなくなるのだ。困ったものである。(笑)
(*2)
厳密には赤い矢印で示した音の一つ前の音(F#)には装飾音符が付加されて演奏されるのだが、この譜面ではその装飾音符は省略して単純化した形で示している。
(*3)
当記事で示した譜面は原曲の正しい表記版である。念の為。
☆
そのような状況の中で、最近筆者が気になった曲がある。ヨハン・シュトラウス1世が作曲した「ラデツキー行進曲」であり、大変有名な曲である。これがユーチューバーが作る動画コンテンツのBGMとして採用されるケースが目立ってきたように思う。
そもそも、この「ラデツキー行進曲」だが、毎年1月1日にオーストリアはウィーン市にある ウィーン楽友協会大ホール にてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートで最後に必ず演奏される定番の曲目としてつとに名が知られている。このコンサートに於いては必ずアンコールとして3曲演奏されるのだが、2曲目は「美しく青きドナウ」であり、3曲目が「ラデツキー行進曲」である。この曲でニューイヤーコンサートは締めくくられるのだ。
「ラデツキー行進曲」の演奏が始まると、客席のオーディエンスも曲の特定の場所では手拍子を打ってオーケストラと一緒に盛り上がる…という慣習がある。下記の動画を参照されたい。
小澤征爾指揮・ウィーンフィルに依るニューイヤーコンサート(2002年)に於ける「ラデツキー行進曲」
『Radetzky March, Seiji Ozawa』
そして、この曲の著作権が既に切れている事から、電子楽器にデータを打ち込んで作られたフリーのBGM素材が出回っており、多くのユーチューバーのコンテンツに採用されているようだ。その実際の音を下記の動画で参照されたい。
『ラデツキー行進曲:ポケットサウンドフリーBGM素材』
この2つの「ラデツキー行進曲」を聴き比べてみて、音楽的センスのある方ならメロディーラインに決定的な差異がある事に気づかれたと思う。そこが冒頭で「気になった」と記した箇所である。フリー素材として出回る「ラデツキー行進曲」のメロディーは一部分に間違いがあり、動画のBGMとして聴こえてくるその間違いが気になってイライラするのである。(笑) (*1)
メロディーの一部が間違っている・・・どこが間違っているのか?
楽譜でご覧いただこう。(サムネイルをクリックすると大きな楽譜が表示されます)↓
曲の開始から4小節は前奏(イントロ)であり、その最後の1拍に食った形(アウフタクト(弱起))で主旋律が登場するのだが、問題はこの主旋律の中にある。
この曲のキーはニ長調(Dメージャー)である。赤い矢印で示した音はニ長調の第2音(E)に#(シャープ)が付いているのでEを半音上げた音(=F)となる。この赤い矢印が付けられた区間はニ長調の第3音(F#)と第2音が半音上げられた音(E#=F)が中心になっている。(*2)
問題はこの音である。
フリーBGM素材の方は赤い矢印で示した音を間違えている(*3)のであり、第2音に#が付けられていない、つまり半音上げられていないのである。従って普通にニ長調の第2音(E♮)そのまんまになっているのだ。上述のようにここの音程はE#(=F)でなければならない。ここをE♮で鳴らされてしまうと、なんとも気持ち悪いダサい旋律になってしまうのだ。
音楽に詳しくない方々の為にハ長調(Cメージャー)に転調して示すと下記の通りである。
本来は
「ミレ#ミ・ミレ#ミ・ミレ#ミ・レ・ド ミレ#ミ・ミレ#ミ・ミレ#ミ・ラ・ソ」
という具合に演奏される旋律なのだが、フリー素材の方は
「ミレミ・ミレミ・ミレミ・レ・ド ミレミ・ミレミ・ミレミ・ラ・ソ」
といった具合に、「レ」に「#」が付いていない。本当は「レ」が半音上がって「レ#」でなければならないのだが、ナチュラルのままなのである。
この半音差は大きい。たかが半音だが、音楽上はとても大きな差である。
恐らく電子楽器にデータを打ち込む人が「ラデツキー行進曲」をよく知らなかったが故に間違えたか、または間違った記譜の譜面を参考にしたか、或いは、打ち込み時に#を見落として間違って入力してしまったかのどれかであろう。逆にこれが正しいメロディーだと思って入力したのなら阿呆である。控え目に言って間抜けだ。この間違いをもしも演奏の現場でやらかしたらグーパンチされても文句は言えない…それほど酷い間違いなのである。
少なくとも音楽をやっている人ならば、原曲を知らなくても、何となく「ここは半音上がった音だよな」と気づく筈なのである。それが音楽に携わる人が持っているべき基本的なセンスなのだ。
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(*1)
例えば「はすきぃと嫁ぴぃ」などの動画でこの曲が多用されているが、間違った音を含むメロディーが鳴るので動画それ自体が楽しめなくなるのだ。困ったものである。(笑)
(*2)
厳密には赤い矢印で示した音の一つ前の音(F#)には装飾音符が付加されて演奏されるのだが、この譜面ではその装飾音符は省略して単純化した形で示している。
(*3)
当記事で示した譜面は原曲の正しい表記版である。念の為。
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